一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

2021-09-01から1ヶ月間の記事一覧

若返り

ヨルダンで今、新世代アカツキが闘っている。 アジアカップのグループリーグ。緒戦、対インド133-46。第二戦、対ニュージーランド60-50。第三戦、対韓国67-62。すべり出し三連勝。最終ライヴァルはむろん、オーストラリアと中国だ。 インド戦は、現状から…

金八

助六寿司。スーパーでもコンビニでも、そう称ばれている。 申すまでもなく語源は、江戸歌舞伎十八番『助六所縁江戸櫻』(すけろくゆかりのえどざくら)。粋という江戸の美意識はまずもってこの主人公により代表される、と云い継がれてきた。お相手の遊女の源…

無銘

韓国海苔というものに、幾度かお眼にかかった。日本でも、愛好者が増えているとのこと。一度だけ、いただいてみた。美味い不味いの問題ではなく、日本の海苔とは、別の食べ物だ。むろん韓国海苔にだって、ピンキリがあろうし、たまたま私がいただいたものが…

ちょうどいゝ

東京には老舗の名菓・名品かずかずあれど、気取りのない、ちょいとした手土産といった進物で、しかも東京ならではの特産となると、はて思案に余る。と、昨日のブログに書いたところ、友人からご助言。そりゃ海苔だろう。 あっ、そうか。とんだ迂闊だった。ご…

五キロ

従兄から、新米が届いた。地元仕様の、生産者の顔が見える米である。ありがたい。父方母方とも、親戚の半分は新潟県民だから、拙宅は東京に住みながら、米を買った経験がほとんどない。 私と同齢の彼は青山学院大学の文学部史学科卒。民俗学や文化人類学に関…

到達

ビッグエーはディスカウントスーパーを標榜している。昔当った広告コピーに、「同じ品ならどこより安い」があったが、それだ。 落着いて眺めれば、「同じ品」とは申しがたい品物が多い。そこは賢い主婦たちのこと、個人商店さんと別のスーパーさんと当店さん…

親子その後

菊池寛(1888-1948) 『父帰る』は明治四十年頃の設定。道楽三昧とにわか事業の失敗から、妻と三人の子を置去りに、情婦と逐電した父が、尾羽打ち枯らした姿で二十年ぶりにひょっこり帰宅する噺だ。 かつて父なき一家は極貧に喘ぎ、一家心中未遂にまで追込ま…

サイドステップ

老人は、夜更けに買物、という噺。 一昨日と一昨々日、二日続けてパスモを使った。久方ぶりだ。カード類で買物をせぬよう心掛けているし、タクシーを拾う機会もなくなった身には、パスモは鉄道運賃専用と申してよく、いっこうに残高が減らない。 鉄道での外…

手立て

現代で、ですか? 好きなファッションモデルですか? そりゃなんてったって、カーリー・クロスってことになりましょう。 たゞ昨年十月でしたか、妊娠を発表。今春第一子ご出産でしたから、こゝしばらくはランウェイを歩いてませんよね。有名ブランドのコレク…

ご命日

詣り墓(左)と埋め墓 埋め墓に、兄・本妻・長男(早逝)・長女桃子(作家)・事実上の妻(生涯の伴侶)ともども眠る。 詣り墓の文字は、志賀直哉筆跡。 背後には、サルスベリ大木。 廣津柳浪墓 昭和三年歿。享年六十七歳。 息子およびその家族の埋め墓に向…

順ぐり

江戸中期の集約 彼岸入り。金剛院さまでも、本堂と大師堂の観音扉が開かれ、どなたでもご本尊や弘法大師像を拝見できる。 当然お詣りするとして、それとは別に、常日頃から興味を惹かれているのは、近隣の石仏を集めて円錐形に積上げられた塚である。もとは…

名案

両口屋是清、不動の三菓仙。左より「旅まくら」「よも山」「志なの路」。 久方ぶりにパスモを使う。池袋へ。彼岸詣りの準備だ。二十五年来、ナントカのひとつ憶え、両口屋是清である。 かつて盆暮れも春秋彼岸も、菓子をお供えしていた時期があった。仏様に…

きっとそう

幸いにして東京は、まだ暴風雨や洪水・崖崩れに見舞われていないが、油断してはならぬ雲行きだと、ラジオが云っている。そうだろうなと、私なりに思う。昨日今日、窓の隙間や換気口から、やたらにクモが室内に入って来るからだ。 一日で上る雨ならば、彼らは…

我が軍

我が軍、最前線の戦闘部隊、関の孫六中隊。 たかがメロンを切るだけのことなのだが、いずれの包丁を使うか。果物専用ナイフなど持合わせぬ身としては、少々思案のしどころだ。 重要案件に対しては、まぁ命までは盗られまいと、ほどほどかつ気軽に決断してし…

食べごろ

年に一度の贅沢。 北海道出身の元村君は、札幌のホテルマンだった。あるとき一念発起、意を決して東京の大学に入学した。長年の夢だった写真の勉強がしたくてである。三十歳代後半となっていた。三月末まで勤め、四月一日の入学式にも出席したという。 「お…

長いあいだ

夏のうちに、閉店のお報せが出た。その後、店仕舞につき在庫売り尽しのセール期間があり、ついにシャッターが下りた。 刃物屋さんで研ぎ師さんだった。鍋釜ヤカンを商うばかりか、修理もしてもらえた。鎌・鍬・スコップでも、カンナ・金づち・ノコギリでも、…

さて問題は

お前ら、誰よぉ。こういうのが、どっからかふいにやって来ちゃうから、草むしりの手が、鈍るんだよなぁ。 それに、リコリス(彼岸花)だったら、ふつう赤でしょうに。選りにも選って……。 応募規定は「未発表の小説か評論」となっている。まず普通は、小説(…

四日目

先般の長雨。こゝへきてからも、ふいのにわか雨。十分二十分の草むしりでも、軍手の指先が泥まみれになる。乾燥続きであれば、パンパンと土埃を叩き落すだけで済むものを、どうしても洗わなければならない。 かといって、もとの白さに戻そうとばかりに、湯殿…

手間

1/2カットから12ピース取り。前回最後を含め13ピース。 半世紀前の学友大北君から、南瓜をいただいた。 彼は画に描いたような、スマートな都会派学生だった。いつまでも方針が決らずにぐずぐず留年していた私と違って、さっさと四年で卒業。服飾業界へ就職し…

別物

松川駅付近。現場に立ちて、想う。 私にとって九月とは、お彼岸の墓参りと菩提寺さまへの挨拶、そして広津和郎の命日である。 日本近代文学史にあって、桜と橘のごとく、一対に称ばれる先人が幾組かある。 藤村・花袋。およそ文学に関わる者で、ご両名の恩恵…

道理

廣津和郎様、永らくご逗留中 晩年の広津和郎は、松川裁判が不当裁判ではないかとの疑いを抱き、検証・批判に全力を注ぎました。 刑法議論をしたのではありません。あくまでも文士らしく、第一審・第二審の判決文や裁判記録の微細な矛盾をも見逃さずに、克明…

素足

とある文学賞の選考作業を分担中で、応募作品を毎日読んで過している。不正・情実を避けるべく、作者の個人情報など一切伏せられたものを、読んでいる。中年の書き手と思しき作品も混じるが、ほとんどが若い作者らしく、学生作品も多そうだ。 今春、定年退職…

手付かず

梅雨時分に一度したきり、草むしりを怠っていた。猛暑とその直後の長雨もあって。玄関周りの狭い空間は草ぼうぼう。建屋とブロック塀の間あいだのわずかな通路も草ぼうぼう。ガスメーター検針のご婦人にも、お気の毒してしまった。などと書いたのが、二週間…

カメラ目線

平野謙(1907~1978) ペット愛玩動画を覗いていて、気にかかる瞬間がある。 腹を空かせた子猫が、乳を欲しがっている。必死なその姿が可愛いと、哺乳瓶を遠ざけてみたりする。そっちじゃないと、わざわざカメラレンズの方に向き直らせて、やり直させたりする…

二万年

YouTubeチャンネル「もちまる日記」様の一場面を、無断で拝借しました。 「あの人は数字を持っている」てな云いかたがされる。放送や出版や広告関連の業界人がたが、起用する出演者や執筆者たちに関して云う。あの人の名前が出さえすれば、あの人の作品でさ…

読み屋稼業

久しぶりに、読み屋の仕事が舞込んできた。 今回は、ある文芸雑誌が無名新人に出している賞への応募作の一次選考、つまり下読み・粗選りである。賞の基準に鑑みて、箸にも棒にも掛らぬ作品を振い落して、上の選考に揚げる作品を限定する仕事だ。原稿用紙百枚…

暢気時代

広津和郎(1891~1968) 谷崎精二先生を囲むお祝いの宴。受付には、英文科の大学院生らが、お客様ご案内係や名簿係として駆り出されていた。会が始まって、ようやく受付が手すきになったころ、老人が一人、入口に到着した。 「あっ、広津さんだ」 大学院生は…

うん、うん、

谷崎精二(1890~1971) 早稲田の文学部で(他学部の事情は存じません)、冠詞も枕詞も付けずに、たんに谷崎先生と申しあげたら、それは文豪谷崎潤一郎のことではなく、弟の谷崎精二先生を指す。学部生のあいだはそうでもあるまいが、大学院生だの助手だので…

月謝

早稲田系御大そろい踏み。丹羽文雄、浅見淵、尾崎一雄。 絢爛豪華な兄潤一郎と、地味な私小説作家の弟精二。谷崎兄弟は外見も作風も対照的だ。父方と母方、受継いだ血筋の違いか。それとも稀にあるという、兄弟なればこその反発的対照かと、それまでは考えら…

老人食

月並×手軽×安価×少量多品目=老人食 ちゃんと食一回、適当食一回。一日二食を原則としている。 他に就寝前の台所での一献が加わることもある。第二食が一献を兼ねることもある。 机作業の一服休憩に、珈琲かカルピスを飲むが、口寂しくてオヤツを摘んだり、…