一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

2022-01-01から1ヶ月間の記事一覧

それぞれの出番

S&B食品さん、ありがとうございます! 我が台所軍団には、常用技術部隊や身をすり減らして奉仕してくれる消耗歩兵部隊のほかに、火器砲兵部隊や電子機甲部隊も、まさかの事態に登場する特殊技能工兵部隊もある。が、忘れてならぬのは、作戦の隙間処理という…

苦行

ほゞ月に一度の、収録日だ。ひとつの噺を四ブロックに分けて、インターバルを空けながら喋る。台本はない。事前打合せもない。ぶっつけの一発録りである。 喋りそこないや脱落は、数知れない。事実誤認があれば、むろん訂正するが、表現の不正確・不十分は無…

つぐない

小学校の給食で、どうしても口に入れられなかったのは、ヒジキ煮だった。ところが現在までにもっとも回数多く作った我が保存料理は、ヒジキ煮だろう。 強い子に育つには、給食はひと口たりとも残してはいけないと、教えられた。径二十センチほどのアルマイト…

なさけ容赦

丸山繁雄CDから『キックオフ』『スウィート・ロレーン』 『ケリー・ブルー』というウィントン・ケリーの名盤がある。ある時期あまりに流行り過ぎて、ジャズというよりスタンダード・ポップスの仲間入りするんじゃないかとさえ思われた。耳の肥えたお人には食…

挫折

ほゞ三か月ぶりに、カボチャを炊いた。二十年以上やってきた、手慣れた手順で。仕上りに、今さらどうのこうのはないが、気分は微妙だ。 カボチャを、揚げびたしに使いたかったのである。手の内に入ったとはとうてい申しがたい献立だから、おゝいに実験意欲に…

やつす

勝 海舟(1823-1899) 会ったうちで一番怖かった人は、だって? そりゃあ西郷だね。あと挙げるとすりゃあ、横井小楠かな……。勝海舟による、人物評価である。 大志の途半ばにして斃れて後進の戒めとなった人物たちと、生き延びて維新の元勲と称された人物たち…

眼玉

『地べたっこさま』(理論社、1972) 沖縄返還五十年、ということは日中国交正常化からも、あさま山荘事件からも五十年ということだ。が、私には忘れがたき一九七二年が、もう一つある。 大学正門の正面は小高い丘で、斜面をおゝって一面の桜が咲き、上には…

カレーパン

ファミマのカレーパン けっこう真面目に、カレーパンを食べている。 日に一度のチャント飯、あと一回のテキトー飯の、一日二食生活が、まあまあ維持されている。テキトー飯は麺類だったりパンだったり、酒肴に変じたり、いろいろだ。 ことに、ものを読みかけ…

ねえんだ

芯を焼く、と教わった噺。 我が常用の熱燗用酒器。常用は気分により、ふとした記憶の蘇りにより、時おり変更されるが、こゝ一年あまりは、これを使っている。 三十歳代だったか、ふと瓶型の徳利に嫌気がさし、鶴首型の徳利をいくつか持ったことがある。おゝ…

群力

季刊『三田文學』No.148(2022 冬季号) 『三田文學』最新号は坂上弘さん追悼特集。文学史的には内向の世代と称ばれた作家の一人で、同誌編集長としても、多大の尽力をされたという。小説家としては地味で手堅い作風で、名品が多いわりには、世間で騒がれた…

いくらか

編集部への手土産。ボロは着てても心は錦。 久しぶりの外出仕事。雑誌の新人文学賞の授賞式。その後に、受賞した若い小説書きと、最年長選考委員との対談を収録。つまり聞き手として、若者から今どきを教わる得がたい機会だ。 選考委員と聴くと、なにやら偉…

補助金

なくて七癖。アキレウスの踵。弁慶の泣き所。いやいや馬鹿は死ななきゃ治らない。宿痾のごとき悪癖というものは、どなたにもおありのようで。 使い回しが利き、保存期間が長いとの理由で、玉葱と人参とを切らさないようにしている。偶然、同時に切れた。さら…

なんとも

小林勇『人はさびしき』(文芸春秋、1973) 生前ゆかりあって親しく交わった人、仕事上での恩人など、逝きし人たちとの思い出を回想した、人物論集。著者は、元岩波書店会長。創業社長岩波茂雄の薫陶を受け、やがて娘婿となった人。それよりなにより、岩波新…

断じて

長谷川如是閑(1875‐1969) 座右の銘を「断じて行わず」とした巨人があった。今では、採り上げる人もめったにあるまいが、途方もなく偉かった人と思っている。とやかく云うまえに、この人の言に、耳を傾けようかと思う。 東京深川に生れた。祖父の代まで大工…

一か所

ヘロドトス(b.c.480?‐ 420?) 超大国ペルシアが、周辺諸国を糾合しながら、我が国をもひと呑みにしようと、大軍で押し寄せてきたのさ。こっちはまだ、小さなポリスに分散したまゝ、それぞれに暮している時代でね。我ら皆が、ひとまとまりのギリシア人とい…

ひと粒論

ラッキョウ漬を切らせたので、銭湯からの帰りに買物。梅干と、ニンニクのシソカツオ漬と、ラッキョウ漬は、同じ棚に並ぶ商品だが、いずれもサミットで買うことにしている。今日はラッキョウ漬だけ。一袋213円(税込)。小鉢に移すさいに数えてみたら、25粒だ…

白足袋

長谷川如是閑『日本さまざま』(大宝輪閣、1962) 早急をサッキュウと読んでも、ソウキュウと読んでも、いずれも正解だそうだ。かつてはサッキュウが正解で、ソウキュウは誤用とまではゆかずとも、慣用読みといった扱いだったと記憶するが。 「NHKラジオ深夜…

クリトン

ソクラテス(b.c.469-399) ほどなく夜明け。今日も好い空模様だ。が、いよいよ時は切迫。今日こそ彼を説得しなければ、取り返しがつかなくなる。こんな場合というのに、彼は何事もなかったかのように、熟睡している。 「おや、来ていたのか。起してくれゝば…

名残正月

栗きんとんが、これでヤマ。私独りの、勝手な正月明けである。 商店街の個人商店が町の供給システムの大半だった時代は、各店舗の「新年は〇日から」といった貼紙を目処に、買物や献立を考えたものだった。開店はしても、松が取れるまでは、まだ本格始動とは…

順不同

阿闍梨餅本舗「満月」(左から)京納言、阿闍梨餅、満月 またも身にあまるご進物に与ってしまった。京都銘菓に不案内の身には、もちろん生れて初めて視る菓子だ。なるほど、味にうるさいかたがたは、こういう菓子を召しあがるのか。 京納言は棹もの。小豆粒…

唇のしわざ

小笠原奈央(1987‐ )日本プロ麻雀連盟所属竹書房『近代麻雀』web「雀士名鑑」より無断で切取らせていただきました。 愛称は「不屈のベビーフェイス」。ツイッター上でも、画像検索でも、コスプレやカラコンや、変顔やイタズラ描き顔の写真が、無数に出てき…

飲む事情

石川酒造「さらさらにごり」「あらばしり生酒」 昨年暮れに、身分不相応な酒を頂戴している。まだ封を解いていない。 くださったのは、英文学科の教授であられた大島一彦さんだ。ある時期文芸学科へ出向され、学科主任を兼務された。そのさいに地道に学問だ…

カンカラ

ジャック・ニコルソン、モーガン・フリーマン 原題は、The Bucket List. バケツのカタログではない。棺桶への支度一覧、というほどの意味。余命を宣告された二人の老人患者が、思い残しを解消するために、病院を抜け出して、とんでもないことをヤラカス噺だ…

雪解け

鏑木清方「二人づれ」(部分) 雪だったのか。シマッタ! 一昨日から昨日へかけて徹夜。取返そうと十二時間も寝ていた。途中何度かトイレに起きたが、窓を開けてみなかった。そういえば半睡半醒のなかで、妙な音を聴いた気がする。近くの工事現場で、砂利を…

納豆論

たかゞ納豆、されど納豆。 なにとともに召しあがるかについては、愛好家それぞれに、けっして譲れぬ持論がおありのようだ。ネギは不可欠とおっしゃるかた。玉子を落してゆるゆるで召しあがるかた、その他。 私はワサビを少々混ぜるだけ。高級はいけない。チ…

息を詰めて

どなたか、ですって? いゝんです、お解りのかただけで。 おかげさまで、我がレッドウェーブ。ただ今、レギュラーシーズン16勝無敗。15勝1敗のデンソーとともに、プレーオフ進出を決めました。ありがとうございます! Wリーグは今シーズンから1チーム増えて…

注意深く

お土産に頂戴してしまいましたよ。とらやの羊かん。注意深く、いたゞいております。 昨年暮れの何日だったかの日記で、我が常用間食のひとつ、ひと口羊かんを紹介した。子どものおやつ用というか、ごく廉価で、ビッグエーの棚に並ぶ駄菓子のひとつだ。 駄菓…

押詰って

――それではこゝで、選手を先導する白バイをご紹介いたします。まずセンターライン側が~、続いて歩道寄りが~(警視庁・県警の交通機動隊に所属する巡査長または巡査のご紹介があって)。「選手の安全確保に、全力を尽します」など、ご当人談話が紹介される…

シキネン

左から「新」「古」 勝手に「シキネン鍋替え」と称んでいる、私ひとりの年越し行事があって、今年も神秘的かつおごそかに、嘘、鼻唄混じりで日常家事のごとくに、催された。 五年半ほど前に、急性心不全の発作に見舞われ、救急車騒ぎを起した。肺に水が溜ま…

居場所

大晦日、元日、そして今日の三日間に、ファミマで煙草を買った以外は、口をきいていない。独り言はたくさん云ったろうが。鼻唄もたぶん。日本語を耳にしていない。いたゞいた賀状には眼を通した。メールの応答もしたが。 苦にはならぬし、寂しいとも味気ない…