一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

2023-03-01から1ヶ月間の記事一覧

赤羽

蜂蜜入りミルク珈琲 L サイズ。初めて味わう味。 昔、爺さんたちが云ってたっけ。長生きはしてみるもんだって。まだそれほどの齢じゃないが、気持は推測できるようになってきた。 ユーチューブ収録日。ディレクター氏が機材トランクを提げて、ご来訪くださっ…

眼と倫理

『文藝 臨時増刊 横光利一讀本』(河出書房、1955) デビュー前の若書き作品『悲しみの代價』が世に公表されたのは、昭和三十年に刊行された『文藝 横光利一讀本』だった。横光歿後八年後である。 若き日の横光は、思い切って暮しを変えようとするさいには、…

隙間葉桜

たとえば、こんな写真を挙げたとする。わが前期ゴミ屋敷のデスク脇である。なにが面白くてシャッターを切ったものやら、どなたにもご理解はいただけまい。 この家に引越してきた昭和三十三年、明るいクリーム色だった壁紙がいかに煤けて、惨めな色となり果て…

年々歳々

電気料金の払込期限が毎月中旬、ガス料金が下旬だ。用紙がポストに投函されている日も、若干の誤差はあれど電気料金がほぼ十日早い。電気用紙が届いても下駄箱の上に放り出しておいて、ガス用紙が到着してから、一緒にファミマで入金することにしている。 ご…

乗合馬車の喜劇

石野英夫:画。「とうよこ沿線」64号より無断切取りさせていただきました。 横光利一の初期代表作『日輪』が、フローベール作品から刺激を受けた作品との指摘は古くからされていて、今では学界常識となっているのだろう。もう一つの例を、わたしは面白いと思…

自己矛盾

黒田清輝(1866 - 1924)、『湖畔』(部分) ふいのことがあってこの数日、横光利一について思い出している。そんなつもりはなかったのだ。 困るのである。残された時間に、一度は読んでみたい本や、もう一度読んでから死にたい本が、山積している。まだ読ん…

塊として

横光利一の初期短篇『静かなる羅列』(大正十四年、『文藝春秋』)を読み返す人など、今ではほとんどないのかもしれない。 インド地図をつぶさに眺めた人は、インダス川とガンジス川の水源は、これほど近くに発していたかと驚くことだろう。中国地図をつぶさ…

現象として

横光利一(1898 - 1947) 問)次のABC 各語群中より、関係深い語を線で結びなさい。 A 語群より「横光利一」―― B 語群より「新感覚派」―― C 語群より「機械」。 正解! 高校入試の国語基礎知識か。ところで、新感覚派の「新」って、どういう感覚? 初期短篇…

ひとつの満開

今の姿をお眼にされては、とうていお信じいただけますまいが、昔は下枝もふんだんに繁っておりましてね、もっさりした感じに咲き匂ったもんでしたよ。自分で申すのもなんですが、爛漫たる咲き姿をお眼にかけたもんでした。今の手前の力では、せいぜいこの程…

事なきことは

赤い肉まん、緑のあんまん。 はてなブログには、昨年の今日のわが日記へ、ワンクリックで跳べる機能がある。 宮城・福島大地震で火力発電所が被害を受け、一般家庭にも節電要請が発せられたと記してある。脱線した東北新幹線の修理点検には、まだまだご苦労…

彼岸日和

本日彼岸の中日は、つかの間の花冷え。昨日は絶好の墓参り日和だった。 久びさ池袋まで出る。三省堂書店、ジュンク堂書店を回遊。たしかアレが文庫化されていたはずだが。いずれも探し物には到達できず。刊行目録を調べてみると、ことごとく品切れ中と表示さ…

猫療法

母の病床雑記帳より。 猫好きにとっては、世界中の猫が可愛いのだという。犬も好きだが、猫のほうがより可愛いだけだという。ところが犬好きにとっては、自分の飼い犬と同じ犬種が可愛いのだという。トイプードルが好き、柴犬が好き、シベリアンハスキーが好…

語り残し

卒業博覧会だとか。卒業してゆく学生諸君全員の作品が展示される。手に取って眺められる。壁ぎわにずらりと据えられたパイプ椅子に腰掛けて、自由に読むこともできる。 ご本人も在校生たちも眺めるだろう。ご両親もお見えになるかもしれない。今春入学予定の…

『朝』

『朝』第44号(2023.3.) 老舗の文芸同人誌『朝』の最新号をご恵送いただいた。過去になにひとつお返しめいたことをしたためしがない。じつに長い年月にわたってだ。まことに心苦しき限りだ。 お返しする仕事が私になかったからだ。あればお返ししている。 …

なんだか面白い

真似される面白さと、真似されぬ面白さ。独自だオリジナルだと、四角四面を申す気は毛頭ないのだけれども。 ツイッターの記事下に、棒グラフ状のアンテナマークが立って、ツイートアナリティクスなるウィンドウが開く。少し面白い。 ほんらいの用途意図に背…

いつでもオーライ

石田芳夫『無門』(日本棋院謹製) お前に用意された門などない。汝の入門を許さず。なにやら容赦のない、厳粛拒絶の言葉とも聞えるのだけれど。 修証一如について、谷川徹三はもう少し先まで紹介してくれている。 端座参禪を修行の正門とする教えにたいして…

開花宣言!

昨日は東京の開花宣言だった。靖国神社の境内に、はたしていく株の桜樹が植えられてあるものか知らぬが、なかの一本が気象庁の試験樹と定められていて、その樹に五輪の開花が観られると、東京都に開花宣言が発せられるそうだ。今度その一本に会いに行ってみ…

まぁお座りなさい

まさに住する所なくして、その心を生ず。住するとは「こだわる、とらわれる」との意とか。視聴きしたところに素直に反応し、立ち停まらず、自然に移り行けという。お経のなかの文句で、禅語となっているらしい。 谷川徹三は若き日、救いを求めようと親鸞に思…

完走

『しんぶん赤旗・日曜版』2022.3.12. シリーズ第一回放送から三十年、「赤い霊柩車」が今回放送をもってファイナルとなるそうだ。主要メンバー一人も欠けることなく、全員そろってのゴールだという。 亡父の後を継いだ葬儀社の娘社長が片平なぎささん。商売…

蟻の一歩

熊谷守一(1880 - 1977) 積上げる、志す、完成に向けて努力する、という方向以外にも、老境の澄みかたはありうるんじゃないか。熊谷守一はさような夢を抱かせてくれる画家だ。 付知(つけち:現中津川市、近年まで恵那郡)の生家では三男坊だった。姉妹もあ…

芽ではなく

昨日は東京大空襲を思い出すべき日だった。七十八年が経った。私一個にとっては、亡母の誕生日だ。九十七年が経ったことになる。 散髪に出掛けた。年明けてからというもの、人さまとお会いする仕事もなかったし、もとより少量の髪だしということで、すっかり…

正直か芸術か

谷川徹三『こころと形』(岩波書店、1975) 心が形として素直かつ正確に現れたもの、それが美であるとは、谷川徹三の揺るぎなき信念だ。もうひとつ、天地万物に神宿る汎神論的な天然自然観があって、人の心が素直に表現された美には、天然自然の形とかならず…

湯冷め夜桜

フラワー公園のマメザクラが開花近しとの画像を提示して、十日が経った。幹の径およそ二センチ、背丈私より少々高く、およそ二メートル。成木らしいが幼木の風情。夜桜鑑賞である。 自宅浴室で風呂を炊かなくなって、もうなん年にもなる。シャワーのみの使用…

上を向いて

不規則生活は確実に老化を促進するらしい。一昨夜も不規則につき寝不足。というより半徹夜、プラス仕事中の小休止的居眠り。昨夜はなんとしても眠ろうと、キッチンドリンクが功を奏して十二時間睡眠。明るい時間帯に起きていられる快適さを味わった。 よし、…

美を分類

谷川徹三『繩文的原型と弥生的原型』(岩波書店、1971) 前著『芸術の運命』から多くを学びえた私は、次著『繩文的原型と弥生的原型』を、刊行からさほどの時を経ずして購入したはずである。結果は、前著以上に蒙を啓かれることとなった。 「漢才(からざえ…

来訪者

どうです。かっこいいでしょう? 残念ながら、私のじゃないんです。 筋向うのマンションが、ちょっとした国際環境だ。台湾人、韓国人、ヴェトナム人の入居者があり、そこへ新たに独り住いのフランス人が入居した。日本人もいる。息子家族と離れて年金生活を…

家系

徳富猪一郎『蘇峰自傳』(中央公論社、1935) 遠い祖先は菅原道真との伝承あるが、蘇峰自身が一笑に付している。そんなこと云い出したら、国民の大多数が藤原氏の流れとなり、途中は源氏か平家だ。 記録に残る初代は徳富忠助、寛永十三年というから一六三〇…

異国の空

どうにも意気が揚らないとき、ふと検索してみたくなる動画がある。 ジョージ上川さんは、オーストラリアのメルボルンを拠点として活動するストリート・ミュージシャンだ。ギターを弾きながらヴォーカルとハーモニカ。左足でバスドラムの、右足でタンバリン・…

いずれはどこかで

朝散歩の愉しみ。 また寝そびれた。しかたなく、ラジオ体操。途方もない好天だ。眠くない。ランドリーへでも行くとするか。 洗濯袋には、パジャマと下着、靴下くらいしか溜ってない。放置されたままのタオル類、手拭きハンケチ、布巾、枕カバー代りのバスタ…

かまけて過す

日記を繰ってみると、拙宅老桜の昨年開花宣言は三月十九日だった。今日つぼみを観た感じでは、今年はもっと早いような気がする。だからどうだという噺。私になにかできるわけでもあるまいし。 ニューヨークの建築・芸術批評家にして広く文明批評家でもあった…