一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

テメ―

年末近くにでもなって、冷気がピーンと音をたてるかのような朝に、我慢して襟を立てゝご近所を歩くと、微動だにせぬ強さを誇るかのように、コイツが咲いていることだろう。園芸店の店さきにも、ハボタンとシクラメンくらいしか、鮮やかな色彩を奏でるものが…

助走

――口上―― 記録によりますれば、本年五月三日に当ブログ立上げましてより、本日が数えまして百八十四日目。満半年を閲したることにと、あいなりましてございます。 お付合いくださいましたるありがたき読者さま、お励ましくださいましたるかたじけなき皆さま…

ミジカッ!

敵は本能寺ということが、そうか、ニュースにもあるのか。 一歳児がパンを呑込みそこなって、喉に詰らせて亡くなったという。三センチ角のパンだそうだが、まさか立方ではあるまい。三センチ平方で厚みが食パン薄切ていど、といった意味だろう。ちょっと曖昧…

地縁

左腕にNHKの腕章を巻いた、二十代後半とおぼしきお嬢さんが、投票を了えて出てくる人を見つくろって、話し掛けていた。もし呼び止められたら、「お断りします。NHK様であれどなた様であれ、自分の投票行動について語る気はございません」と応えようと思って…

肌寒

応報は玉突き事故のごとし。 拙宅だけだろうか。昨夜は妙に冷え込んだ。翌日は収録予定だから、夕食を摂ったら、早く寝るつもりでいたのに、誘惑に負けて、熱燗一本つけてしまった。これが始まりである。 これがまた、たゞならぬ美味さだった。常用の鶴首徳…

達成感

重要な仕事の前には、豚カツを食べることにしてきた。多くの平凡人が考えてきた、もっとも月並な駄ジャレ験担ぎだ。 夕方以降の仕事であれば、昼食か早めの夕食には、豚カツ定食かカツ丼。昼間の仕事であれば、朝食にハラダベーカリイでカツサンドを買う。日…

流行

フラワー公園の隅に、金網で囲われた一画があって、プラットホームの両側に地下鉄が二輛停車している。もう長らく停車している。マニアではないから、型番などは知らない。世間でのお役目を了えた旧型車両なのだろう。 同期生のあらかたは、金属板か塊に戻さ…

決めつけ

平和は文化の問題と考えている。しかし政治の問題と考えるのが主流なのだろうか。私には理解しかねる。 長崎の平和記念公園内に、新たに石碑を一基建立の企画が進んでいるという。原爆によって命を落した朝鮮人の御霊を鎮魂しようとの意図だという。結構なこ…

冷奴

営業再開してはみたけど。さて――? 来訪して作業終了した若者たちに、少しは寛いでもらおうと、かねてより行きつけの博多屋さんへと赴いた。都のご意向で、営業再開となっていた。再開と同時に、客でごった返すかと思いきや、店内は閑散としていた。 勘定場…

スウィッチ

一人のウグイス嬢の指が、しずかにマイクのスウィッチをオフにした。 山中美和子さんが後楽園球場で初めてマイクの前に腰掛けたのは、一九七七年のこと。長嶋茂雄はすでに現役を退いていたが、王貞治はまだ現役だった。「四番、ファースト王、背番号一」と、…

初体験

栗ごはんを炊いた。二十五年以上ぶりだ。一人家族になってからは炊いた憶えがないし、看病・介護時代にも記憶はない。それ以前は、興味本位にあれこれ挑戦したから、その頃のことゝ考えれば、四半世紀前という計算になる。 お土産に栗をいただいた。私のもの…

モノマネ

機関誌『雲』8号(兼『罪と罰』パンフレット) もしもあの日、あの時刻、有楽町駅のホームに立ってさえいなければ……。 生意気にも洋画ロードショウに小遣いを注込むことを覚えた高校一年生は、日曜の午前十時上映の第一回を、おそらくはパンテオン劇場で観た…

秋の色

秋の色 サークル活動の準備と打合せに来訪した若者から、お土産を頂戴した。日ごろは店頭で眼福にあづかるのみで、自分では買うにいたらぬ、秋の色だ。 門を入ると、玄関までの間に一本だけ、立派な柿の木があって……などというお宅が、以前はよくあったもの…

わが円周率

疫病下では、急行も普通列車に負ける。 ――定員六名様です。ただ今、九号機・十一号機は定員となっております。十号機前にお並びください。少々お時間掛りますので、お急ぎのかたは、奥左手のエスカレーターをご利用ください。 失礼ながら、さほどお若いとは…

転がっている

拙宅とはつい眼と鼻のマンション一階が、新店舗開店に向けて工事中だ。くんせい屋さんができるらしい。奥で製造もなさるらしく、電飾看板にはファクトリーと書いてある。そういうご商売があるとは承知していたが、なにやら専門的でお洒落なお店のような気が…

不幸なこと

チケット半券、プログラム、チラシ 一昨日、渋谷ジローでの『オイディプス王』公演を回想したさいに、探し出せなかったものがあった。拙宅の半ゴミ屋敷状態ゆえの不祥事だ。ようやく探し当てた。 チケット半券の上部にミシンが入っていて、ドリンク引換券と…

ネモさん

この町に、こんなビルが必要なんだろうか? いや、こういうビルが建つ町に、私が住んでいていゝのだろうか。スーパーへの夜間買物の帰りに、ふと立停まった。 一階は商店街に面した店舗一軒と、エレベーターホールを兼ねたエントランス。上はすべて、住宅ら…

まことにどうも

月刊文芸誌『南北』(1967年4月号) 渋谷が芸術・文化の発信地ですってェ? では申しましょう。今は昔の物語。 渋谷駅から神宮通りを北上して、右に大盛堂書店の看板を眼にしながら左折すると、公園通りに入る。渋谷公会堂へと続くなだらかな登り坂で、街灯…

あの坂道

パンフレット(チケット半券付き)14公演 あの坂道を、もう一度歩くことは、あるのだろうか。 代々木小劇場と聴いて、あゝアレ懐かしいね、なんぞとおっしゃってくださるかたも、めっきり少なくなったのではないだろうか。演劇集団変身の常打ち小屋だった。 …

憧れ

2021.3.17.番組動画より、無断でいただきました。 熱烈かつ冷静な鉄道マニアの青年が発信し続けている、ユーチューブ番組「謎のちゃんねる」に、惹きつけられている。 鉄道マニアの動画は、私なんぞには見当もつかぬほど数多いのだろうが、この番組はとにか…

楽だ

青銀色光線を何割だかカットしてくれる眼鏡だそうだ。 機械には自分でも呆れるほど無知だから、ビックカメラのパソコン館へは、たまにしか行かない。それでも興味はわずかにあって、お上りさんよろしく、店内をたゞウロウロしてみる。消耗品や初心者用のスペ…

立ち姿

プログラムとチケット半券(1966) 木下順二作『オットーと呼ばれる日本人』宇野重吉演出、劇団民藝公演。一九六六年九月の再演だ。新劇史に残る名作名演との噂には接していた。が、初演は一九六二年。私は世代的に、間に合っていない。 いつか再演をとは、…

どっかの

『文藝春秋 芥川賞・直木賞150回全記録』より無断で切取らせていただきました。 山田詠美さんが『ベッドタイムアイズ』でデビューしてきたとき、おっ、佳い作家が出てきたな、と思った。 若い女性作家が、デビュー前に女王様やってたとか、ボーイフレンドが…

感想の発明

梅干の種とは、いつ別れたらよいのだろうか。口中でさんざん舐めまわして、ほとんど味がしなくなったところで、これで梅も成仏できようと、掌に出す。ふとした好奇心から、ゴミ袋へ放らずに、醤油皿に取って、俎板の隅に置いておく。陰干し状態だ。 次の食事…

出現

公演プログラム、チケット半券(1965~66) 劇団民藝公演『ゴドーを待ちながら』。フランス留学を了えた渡辺浩子さんが、自訳と演出プランを手土産に帰国し、演出した。 むろん私は、ベケットのベの字も知らなかった。たゞ雑誌『新劇』『テアトロ』に眼を通…

憶えて

『道場破り』(松竹、1964)より、上田吉ニ郎。 喜劇役者として実力は認められながらも、脇役に徹してきた長門勇の、初主演作品。腰の低いおとぼけキャラに見えて、じつは神道無双流極意皆伝の腕前。妻の妙(たえ)と次なる仕官の道を求めて、浪々の旅をして…

文句なし

肩の荷をひとつ、降せた一日。 現職の若手教員と、ようやく面談できた。前々から約しながらも、オンライン授業につき登校不可能状態が続き、叶わなかったのだ。面談といっても、私はもはや部外者につき、おいそれと入構することはできない。珈琲館で待合せた…

ひょっとしたら

『めくらお市 みだれ笠』(松竹大船、1969)より 松山容子さん主演のヒットシリーズ。今も鮮明に記憶する高齢者は多かろう。 吉永小百合さんを、岩下志麻さんを、倍賞千恵子さんを大女優とお称びして、反対の手が上ることはあるまい。が、松山容子さんを、お…

秋の蝶

散髪屋さんへの道すがら、季節ごとの花壇が売りの公園前を通る。春の花々とは、どこかしら異なる気配を感じる。気のせいか。こちらの気分の問題に過ぎぬのだろうか。 蝶が一匹、写り込んだ。どーこだ? サークル活動の学生諸君が来訪。大学院生と四年生と三…

具合好く

学生有志諸君が明日来訪とのこと。大学祭(今年は開催するらしい)での催しの打合せと、在庫チェックだとのこと。拙宅が、サークルの資材と在庫の倉庫となっているのだ。同時に、案内印刷物の都合で、私の姿写真を撮影したいとのこと。写真学科の上級生を連…