一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

脂身

  その脂身が旨いのにぃ、そのアラに味わいがあるのにぃということは、よくある。

 テレビを観なくなって十年近くなるものの、根が大衆娯楽好きだから、ユーチューブで古い映画やテレビドラマを観る。鬼平も必殺も、清張も相棒も観る。青春初恋や戦隊ヒーローはさすがに観ないし、渡る世間もパス。韓流は飽きた。
 上げてくださるかたには感謝しかないが、玉に瑕もある。時間の都合や権利問題(固有名詞二次公開)があるのかもしれないが、冒頭・末尾のロールを切ってあるものが少なくない。
 この人、なんてったけなあ、いい脇役なんだ、思い出せねえなあ、あっ切れた。

 脚本家も切られてしまう。星川清二、下飯坂菊馬……画面で確認したい名前だ。井出俊郎、井出雅人、山田信夫……先方はご存じなくとも、私にとっては先生だ。
 昔、シナリオ作家協会が養成教室を設けていた。ただ今云うところのカルチャースクールだ。(今もあるのかもしれないが、私は知らない。)両井出さんや山田さんは、講師でいらっしゃった。私は高校生の分際で、生徒の一人だった。最年少だったと思う。
 思い返せば、他愛のない入門教室だったが、修了後にもっと本格的に勉強する専科コースが設けられていた。私は進まなかった。大学に入学したからである。

 その年の月刊『シナリオ』誌上コンクールで、専科コースの生徒が受賞したと、小さな話題になった。なんでも横浜の酒場で、バーテン見習いだかギター弾き語りだかで食いつなぎながら、シナリオを勉強しているとのことだった。親許から通学している俺なんかとは、気合いが違うなと、溜息つく想いだった。
 発売日を待ちかねるようにして、読んだ。SF仕立てのロマンチック・ディストピアとでも云おうか、奇抜な作品だった。
 大気汚染や公害蔓延、地球上に住めなくなった人類が、種の保存を賭けて最後に案じた背水の一計。心身健康な若い男女を人工衛星に乗せて、生存可能な天体を探す旅に発たせる。当然ながら、近隣宇宙にそんな天体はありえない。何十年何百年かかるか知れぬ長旅だ。
 男女は子を産み育てる。子が一定年齢になったら、もし男子であれば、父親を宇宙に捨てる。女子であれば、母親を捨てる。残った二人で、子を産み育てる。生れた子が男子であれば……これを繰返して、次なる天体へ到達しようという作戦計画だ。

 たしかに登場人物少なく、映像化も容易に見える、手だれ作品だった。が、これが傑作なのかどうか、当時の私の力では判断できなかった。
 作者名はジェームス三木。デビュー当時からこの筆名でいらっしゃった。