一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

浮いた

 朝である。普段であれば、ゴミ袋のチェックを済ませて、就寝する時刻である。が、今朝はどうしても記録しておかねばならないことがある。昨日、SNSを通じて、とんでもないビッグニュースが飛込んできた。

 ENEOSサンフラワーズのアースこと宮澤有貴の、富士通レッドウェーブへの移籍が決定したという。これは大事件である。
 Wリーグに所属する他の十一チームの選手のなかで、敵ながらあっぱれと思いつづけてきた選手が、来シーズンからチームメイトになるのだ。

 レッドウェーブは伝統的に、サイズのあるチームではない。それには理由があって、走れない選手は要らないのだ。サイズでバスケをやらない。スピードでバスケするのだ。今も、ディフェンス・リバウンドからパスアウト、センターラインを越えてフロントコートへ持込むまでの秒数は、十二チーム中で一番早い。ターンオーヴァーからの一発速攻も多い。
 司令塔であるルイこと町田瑠唯キャプテンが、五年連続でアシスト王に輝いているのは、伊達ではないのだ。

 反面、ゴール下でのサイズ不足には泣かされてきた。対サンフラワーズ戦では、相手の大砲・渡嘉敷来夢に極端なまでに集中せねばならず、すると逆サイドからアースのスリーポイントにやられるという、痛い思いを繰返してきた。彼女がまた、入団したてのころは荒削りな原石だったのに、地道な練習でスリーの名手の一人にまでなった。今やナショナルチーム屈指のスリーポイント・シューターである。
 しかも彼女は、サイズのある選手なのに、走れる。ルイからシィこと篠崎澪への縦パス速攻の鮮やかさは、レッドウェーブの“売り”のひとつだが、理想を云えば逆サイドを走れる足がもう一枚欲しいところだった。フォローである。この補強は、じつにいい。

 ポジションから云って、リツこと内野智香英やキラこと内尾聡菜との出し入れということになるだろうが、このポジションには急成長のマナこと田中真美子という、将来のレッドウェーブを背負うに違いない大器もいる。眼の離せぬポジション争いとなろう。
 あとは司令塔との相性だが、大丈夫、これは心配ない。ルイとアースは、ナショナルチームの合宿等で仲良しだったらしい。両者のSNSでの言葉をつなぎ合せると。
 思い返せばルイは、札幌山の手高校三年生のとき、一学年下の超高校級大型荒武者・モエコこと長岡萌映子(現トヨタ自動車アンテロープス)を使いこなして、常勝軍団・桜花学園を寄せ付けずに高校三冠を達成した、歴史的キャプテンである。並の猛獣使いではないのだ。
 今シーズンの出来も悪くはなかったが、来シーズンは途轍もなく面白くなりそうだ。

 申し遅れたが、私は富士通レッドウェーブのファンクラブの一員である。W-TVチャンネルでレッドウェーブの全試合をご覧いただくと、コートサイド席かベンチ裏席あたりに、たまに場違いに浮いた感じの爺さんが映っていることがある。