一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

下半身

 ふと思い出して、ディトー(DYTTO)の動画を久かたぶりに観たくなり、検索してみた。ここ数年の、未見の動画も数多く、当然ながら、見当らなくなっている動画も多い。が、今なら「伝説の」と云ってもいゝだろう、2015WOD(World of Dance)LA.は残っていた。二人の先輩男性ダンサーと共演している、この動画一本で、彼女は世界に知られるようになった。

 二人の先輩のうちの一人ノンストップ(Nonstop)は、観客をして重力についての常識に疑いを抱かせるという、とんでもなく個性的な、曲者ダンサーだ。リズム感と体幹の強さ(=重心の操作)は一流ダンサーに共通するが、加えて彼には足の爪先・かかと・甲と側面、つまり足首から先に驚異的な芸があって、真似できる者がない。

 そんな彼の隣で、一度観たら忘れられない、眼ぢからの強い美少女が踊っている。迷彩柄のパンツ。同じ柄のキャップの左右から豊かな髪をはみ出させて。誰だ、このキュートな娘はっ! 新しい才能に敏感な若者たちが、飛びついたのも当然だ。
 ヒップホップだけでなく、さまざまなダンスや、タップやパントマイムまで練習して、アトランタからやって来た少女で、まだ十七歳だという。人気に火がつき、テレビのインタビュー番組にも呼ばれた。トークだけは、いかにも十七歳だった。

 私は敏感ではないから、デビュー一年後くらいに知った。当時ユーチューブで観られた動画は、おそらくあらかた観たと思う。
 ショウウーマンとして彼女は急成長した。と同時に、すぐれた才能がかならず一度は直面する課題が、早くも訪れた。自分の芸風が確立されてしまうのだ。ディトーがなにを踊っても、いかにもディトーになってしまう。
 「生きたバービー人形」と称賛されたのを逆手に取るように、彼女は人形になって見せた。深夜、人形に生命の灯が点って踊りだし、夜明けとともに人形に返ってゆくまでを、踊って見せたのだった。ルックス可愛いディトーを観たかったら、今でもこの演しものがお奨めだ。
 しかしそこには、娯楽化された芸の安心感はあったが、未知への開拓意欲は乏しかった。私はあまり動画を探さなくなった。やがて、ほとんど観なくなった。

 だのに今日、何年かぶりにユーチューブで検索してみた。つね日頃の暮しの語彙にはない「踊り」などという語を、昨日口にしたからだ。
 彼女は大人っぽくなっていた。躰も大きくなっていた。女性的に、より美人になったといっていゝのだろう。以前から工夫を凝らしていた、腕と手、それに上半身による表現には、より磨きがかかったと云っていゝのだろう。モデル、振付師など、仕事の幅も広がっているらしい。ファンはますます増えているらしい。結構なことだ。
 とにかく、とんでもなく魅力的な女性(さすがに今は少女ではない)ではある。

 ただ、ついでにノンストップの動画を検索してみたら、彼は今も足を駆使して、下半身で踊っている。