一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

夏痩せ

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 台風が近くにいる影響なんだとか。風もあって、やゝ凌ぎやすい日だ。
 トライアスロンの女子選手たちも、次々ゴールできたようで、よかった。前日の男子選手たちは、じつにお気の毒だった。テニスの男子選手にも、重症者が出たという。台風がもう一日早くに、近づいてくれればよかったのに。

 誘致のさいに「我が国はこの季節、まことに温暖な気候で、アスリート諸君には、最高のパフォーマンスを発揮していただけます」と、当時の宰相は世界に向けて力説なさったんだとか。憶えていないけれど、本当だろうか。
 だとしたら、さすが宰相。偉いもんだ。台風が近くに来てくれることを、読んでいたのだろう。オリパラ期間中ずっと、上陸もせず遠ざかりもせぬ台風が、涼風を送り続けてくれると、計算していらっしゃったのだろう。涼風がもう一日、早ければよかったのに。目算が狂われたか。
 「嘘つきシンちゃん」と、陰では呼ばれているんだとか。なんと外国でも。これも実態はなにも知らない。もし本当だとしたら、恥かしいし、情けない。

 オリンピックだからといって、常日頃は注目していなかった競技にたいして、にわかに興味を抱いたりするのは、好かない。けれども、トライアスロン中継を観るのは、好きだ。メダリストだけでなく、苛酷なレースを泳破・走破してゴールする全選手が、栄光あるアスリートたることが、誰の眼にも明瞭だからだ。
 (本当は全種目の全選手たちが、さようなのであるけれども。)

 子どもの頃、オリンピックといえば決って、ピエール・ド・クーベルタン男爵という名を聴かされ、「オリンピックは参加することに意義がある」と教えられた。
 いつ頃からだろうか。参加するからには勝たねば、に変ったのは。日の丸のプレッシャーなんぞと、なんとも下品な言葉である。
 試合を了えたばかりの選手にマイクを突き付けて、「支えてくださった皆さんのおかげです」へと無理にも誘導する、下品なインタビュアーばかりが目立つようになったのは、いつ頃からだろうか。

 好成績をおさめられたのは、なによりかにより、君が頑張ったからだ。キツイ練習に耐えてきたからだ。支援者へのお礼などは、ずぅっと後でいゝ。
 コーチやトレーナー、ドクターや栄養士さん、寮長さんや賄いさんらは、ともに好成績をおさめたチーム・スタッフであって、いわば内部の人。外部支援者ではない。そして心ある外部支援者ならば、できる限り選手本人に気遣いさせまいと配慮しつつ支援するはずであって、試合直後のインタビューで礼を言って欲しいなどとは、これっぽっちも思わぬはずだ。
 しかし人の世。これ見よがしの自称支援者も、さぞや多いのだろうなあ。

 噺は戻って、自分では経験したことも、今後経験する可能性も皆無の、純然たる眺め観戦スポーツとしてかねがね好きな種目は、カヌー・スラロームだ。それもどちらかといえばカナディアンよりもカヤックである。今日は日本からも出場選手のある女子の試合。この分野は、まだ世界とは遠いが、いゝ試合だった。
 各選手のフィニッシュ後に、特徴箇所のスロー映像が挿入されるが、北斎の画そのままに逆巻く波を、全身に被りながらも、次なる旗門を狙ってかカッと視開かれた選手たちの眼付き・表情が素晴しい。まさに急流を突っ切る勇者たちの顔である。

 さて本日は、女子バスケ本チャン(五人制のほう)。緒戦は対フランス。楽な相手ではない。実際に出足は波に乗れず、前半はリードされて終った。第三ピリオドにようやく波が来て逆転。僅少点差ではあったが、プレー内容も安定していて、まず一勝。これは大きい。
 毎度のことながらモエコこと長岡萌映子選手には、ハラハラさせられる。前半はわざとフリースローをボロボロ落して、勝負所はスリーでズバッですもんなぁ。関西のかたがたがおっしゃる、「笑かしやがって」だ。まさに。
 札幌山の手高校の頃から、そういうところがありました、アンタには。むろん当時から、ゆくゆくはナショナルチームの柱になる大事な少女と、思ってはおりましたが。

 さて、夜は3×3のほうが準々決勝。それまでに、少し眠っておくか。それとも食事が先か。老人がオリンピックで夏痩せしたなどという破目に陥っては、洒落にならぬ。