一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

サイン

f:id:westgoing:20210820161916j:plain

『メタモルフォーゼ』より、無断で切取らせていただきました。

 絶世の美女や天下の二枚目、美形役者の悪役てえもんは、ひときわ映えますな。アラン・ドロンの悪役や、マレーネ・デートリッヒの危険な女なんざ、たまりません。例えが古いね、どうも。
 映画やテレビドラマの新作を、とんと観なくなりました。わずかに時おりユーチューブで、懐かしの時代劇やら事件ドラマなんぞ、観るのがせいぜいといったところ。でもね、あながち漫然と観ているわけでもございませんでな。
 どんな端役であっても、高橋かおりさんが出ていらっしゃれば、観ます。

 子役から出発して、演技派・個性派役者へと成長した役者さんは、たくさんおいででしょう。お齢の割に長い芸能生活で、自然と身についた、間だの按配だのという感覚が優れておいでなのでしょう。でもね、高橋かおりさんは、そういうのとはちょいと違うんだなあ。
 たしかに子役でいらっしゃいましたよ。とびきり弾ける笑顔が印象的な。コマーシャルも当りましたなあ。少し大きくなられてからは、アイドルでしたよ。ただし、しゃにむに自己主張したり出しゃばったりはしない感じの、上品なアイドルでした。
 その後はお嬢さん女優。細面に細身、やゝ華奢な印象の体躯でしたから、人柄善良なのになぜか幸薄いお嬢さん、といった役どころだったでしょうか。

 その後ですよ。おゝ化けしてギラギラ輝き始めたのは。汚れ役や悪役が振られるお齢になったのです。なんたってルックスときたら、どこから観たって清潔そのもの。悪意だの怨念だのは毛ほども感じられませんのに、なんとなんと、心の中には夜叉が棲んでいる。じつは翳がめっぽう深い。よろしいんですね、これが。
 実例ですか? その方面の代表作? さぁて、それは不可能と申すもの。なにせ十津川警部、窓辺太郎、鑑識班、科捜研、生活安全課、温泉若女将、さすらい署長、ショカツの女、鉄道捜査官ほかほかほか。シリーズ化されたドラマに、ご出演なきものなどございませんので。
 どうしても実例ひとつ。う~ん、少々前になりますが、おゝ化けが始まった頃の過渡期作「示談交渉人甚内たま子裏ファイル」なんぞ、入門編として忘れられません。渡辺えり子さん主演の保険調査員ものです。かおりさんは、酒屋の働き者の若女将さんですが、もと暴走族つまりレディーズの姐さん。台詞・表情とも、堂に入った啖呵ぶりを観せてくれています。

 高橋かおり写真集は、現在までに四冊ございましてね。
 1)『少女の行方』(撮影:安珠)
 ロリコン癖もアイドル嗜好も皆無の私にとっては、ほゞスルー。
 2)『わたし』(撮影:伊藤隼也)
 副題に「14歳から21歳。幻の全記録、一挙公開!」とありますとおり、大変な年月をかけた労作です。欠かすことのできぬ一冊ではありますが、私の興味から申せば、高橋かおり未満。歴史的価値の範疇。
 3)『PARIS  HOLLYWOOD』(撮影:小野麻早
 好い表情が撮れておりますが、撮影場所を限定したことの帰結でしょうか。あまりに一方向的の感じが否めません。
 4)『メタモルフォーゼ』(撮影:渡辺達生
 やはり今のところ、これでしょう。カラーもの・モノもの、笑顔もの・憂いもの、寄りもの・引きものと、立体としての高橋かおりを、漏れなく撮りこなしております。

 さてそうなりますと次は、かおりさんとお会いしたさいに、どのページにサインをいただこうかという心づもりの問題になりますが、これがまた途方もない難問で、前へ後へとページをめくり返しながら、何年か迷ってまいりました。一度決断しても、しばらくすると気が変ったりするのです。
 ですがおかげさまで、今では決定しております。
 んな機会があるわけねぇよっ、とおっしゃいますか? 想うだけなら勝手でございまショッ。