一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

到達

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 ビッグエーはディスカウントスーパーを標榜している。昔当った広告コピーに、「同じ品ならどこより安い」があったが、それだ。
 落着いて眺めれば、「同じ品」とは申しがたい品物が多い。そこは賢い主婦たちのこと、個人商店さんと別のスーパーさんと当店さんとを、品目によって使い分けていらっしゃるのが普通だ。私はココ一辺倒です、とおっしゃるのは、独身青年やお若いカップル、あるいはこの町で日の浅いかたがただ。

 ところで、混み合ったレジに行列しているちょうどその脇に、菓子パンやキャンデーや、ひと口スイーツが並んでいる。棚だけでなく、ワゴン積みされていて、今日限りデスヨ、みたいな顔をしている商品もある。
 買う予定だった商品はすべて籠に入ったが、おやっ、こんなものならチョイト試してみようかという気にさせられる。購買者の心理を読んだ陳列だ。

 本日手を伸ばしたのは、「かりんと風あんどーなつ」一袋四個入で九十七円(税別)。今まで気付かなかった商品だ。
 もともと餡ドウナツは大好物。たゞ日常的に手を伸ばすほどではない。年寄りが揚げパン系を頻繁に食うのはどうなのだろうか、という気がある。揚げパンを食いたい体調・気分の場合にも、優先順位の高いのは、カレーパンのほうだ。だがほんの稀に、餡ドウナツ食いてぇ―、という気が起きることがある。
 それに行列脇のワゴン。おそらく店側も試し仕入れ。本日のチャレンジ品だ。今後出会えるか否かは、今日の売行き次第だろう。あれを食っておけばよかった、その後再び姿を眼にする機会がないが、という商品は、過去にいくつもあった。

 かりんと風とは? おゝむね予想どおり。生地に黒糖風味があって、それを際立たせるべく、つぶし餡の甘味を心持ち抑えてある。
 満足いたしましたけど、それが何か?

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 同様の事情・動機から、二週間ほど前に手を伸ばしたのは、「蒸しきんつば」。
 はい、榮太楼でも本高砂屋でもございません。袋に五個入りです。私は満足いたしましたが、それが何か?

 こういった商品とは、一期一会。袋に製造元や販売元も明記されているから、販売店を探したり注文したりも、さしてむずかしくはなかろうが、なんだかこだわり過ぎの感じもする。
 またいつか巡り会ったら、などと考えているうちに、忘れてしまうほど、ご無沙汰となってしまうことが多い。

 それでは当方に差し障りが生じる。安く安定供給されるデザート甘味はと、とっかえひっかえ試みてはみたが、定見を得ない。そこで到達したのが、菓子を探すことはやめにして、源流を抑えるという発想の転換だった。

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 「さくらあんゆであずき」ひと缶百二十七円(税別)。これだったら恒常的な常備商品だ。レジ行列脇なんかではなく、出汁昆布や乾燥若布の隣りくらいに、いつも補充完備されている。
 これを蓋付小鉢に移しておいて、パフェスプーンというのだろうか、頭が小さく柄が長いスプーンをもって、少々ずつ舐める。インスタント珈琲と抜群の相性だと発見した。その日の気分で、摂取量を加減できるのも、好都合だ。
 気に入っていて、まだ飽きる気配もないですけど、何か?

 食後にくつろぎながら、ジジイが独り、パフェスプーンをしゃぶっている画は、むろん流出厳禁ものだが、このデザート(?)との付合いは、もう二年以上にもなる。
 季節によっては、汁粉や手作り和菓子を仕立てるかたもいらっしゃろうが、年間通算では、ビッグエーから茹で小豆の缶詰をもっとも多く買ったのは、おそらく私である。

 こう書いてくると、さも甘味に目がない甘党かと、思われてしまいそうだが……。
 これで、大酒飲みですが、何か?