一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

淡々と

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 このところ話題に出てこないところをみると、熱が冷めたのか、などと思われては、はなはだ心外だ。
 Wリーグは始まっている。まだ天下分け目の関ケ原に差掛っていないだけだ。リーグ戦日程の常道だが、前半は昨年下位チームと当る。東京羽田ヴィッキーズシャンソン化粧品Vマジック、トヨタ紡織サンシャインラビッツに順当勝ちで、すべり出し六連勝中。しかしこれもオリンピック効果だろうか、各チームとも熱が入っていて、ことに下位チームの底上げレベルアップが急だ。

 東京羽田は、かねてから星取表以上に好いチームで、我がレッドウェーブも何度か足元を掬われた。シャンソンは大規模補強で一気に若返り、まったくの別チームに変貌した。二戦目ではディフェンスの気合いが素晴しく、一進一退の展開で、一時は危なかった。が、当方スタミナと粘り腰はリーグ屈指のチームにつき、また層の厚みもグンと増したにつき、最後には逆転すると、疑ってはいなかったが。

 あと二週三週すると、上位同士で星のつぶし合いに入る。常勝軍団ENEOSサンフラワーズだけでなく、トヨタ自動車アンテロ-プスも相変らず強い。それに今年はデンソーアイリスが強いと踏んでいる。全日本のキャプテン高田と若手赤穂姉妹の隙間に、あの本川が補強で入ってきている。
 わずかな星勘定で、優勝から五位までが動く可能性のある、激戦リーグとなりそうだ。Wリーグを一度観たいと思っていたかたは、今シーズンからご覧になることをお奨めする。

 ところで、実況アナウンサーがレッドウェーブのことを「スター軍団」と称んでいた。たしかにオリンピックの5×5、3×3、それにアジアカップ。大活躍した四人がいるし、かつて代表入りしたことのある選手もいる。だが、今後の上位チーム対決となれば、あっちにもこっちにも国際級選手はウジャウジャいる。
 だいゝちレッドウェーブの戦略もチームカラーも、スターシステムとは程遠い。全員で走る、そして誰もがスリーを打てる。総合力と連携のチームだ。「スター軍団」という点が売りではない。

 ネット上では、町田瑠唯の人気が爆発している。むろんオリンピックでの神業的アシストパスが眼を惹き、「可愛い、カッコイイ」が渦を巻いているのだ。眼元が可愛い、笑顔が可愛い、ボーイッシュなショートヘアがたまらない、というのまである。
 これもオリンピック効果だ。かつてサッカーの川澄奈穂美さんや、カーリング本橋麻里さんも同様だった。
 ご本人がたはさぞや、地道な努力を積み重ねていた頃には誰もなんとも云ってくれなかったくせにと、思われたことだろう。今になってなにさっ、と。それでもスポーツが注目されることに貢献できるならと、ご不自由も我慢なさったのだろう。
 
 今シーズン私は、会場観戦に出掛けないつもりだ。老人は人混みを避けよということがひとつ。だがそれよりも、こういう時の会場には、カメラを提げた少女たちが、試合展開そっちのけで町田瑠唯を追いかけ回すに決っているからだ。

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2010.高校総体札幌山の手高校キャプテン。

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2021.東京オリンピック、全日本司令塔。

 ――兄のほうは、自分ですぐ野球が好きになりまして、夢中でした。妹のほうは、いつまでも決りませんでねぇ。バスケ、やってみてはと奨めてみたんですわ。これがハマりまして。
 本拠地とどろきアリーナの階段下にある殺風景な喫煙所の片隅で、かつてハーフタイムの立ち話に、お父上から伺った噺である。愛娘のご活躍を、誇るでもなく謙遜するでもなく、たゞ淡々と語られる、感じの好いお父上だった。