一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

ご提供

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 大豆の保存に失敗して、カビが生えてしまったことから、納豆ができたと聴いた。

 ブロック塀の内側へ落ちたカリンの実は、下が土だから、即日アリや微生物たちの栄養となり始める。往来側に落ちた実だけが、たまたま私が早起きもしくは遅寝で表に出た場合のみ、私のものとなる。
 カリン酒には気が乗らない。断捨離準備で片付けた広口瓶を出す気になれない。他に使う宛のない氷砂糖を買うのも業腹だ。甘く煮詰めて、シロップにでもしようか。

 皮に変色した部分があったので心配だったが、割ってみたら案の定、傷んだ箇所があり、虫が出ていった痕跡もある。こゝで放棄撤退するか続行するかの分岐点。今年は続行することに。
 リンゴや梨と違って、皮剥きも容易ではない。ピーラーを使う手もあるが、あとで切除しなければならぬ箇所が多いから、包丁で厚めに剥く。剥いた皮と果肉とから、傷んだ箇所を丹念に切取る。細かい外科手術だ。思いのほか時間が掛った。
 関の孫六三兄弟のうち、日ごろ冷や飯食いの三男坊(ぺティーナイフ)が、今日は大活躍だ。

 種と細かく切った皮とをゆっくり煮て、トロみが出たら濾して種も皮も捨てる。水を加え、さいの目に切った果肉と、砂糖を投入。大胆に外科手術した残りだから、さいの目とは名ばかりで形状まちまち。不等辺直方体。八面体もあり。しかも何割の果肉が活き残ったかも推し測りがたく、したがって砂糖の分量も見当をつけにくい。
 シロップ作りに砂糖のケチりは敗北の元。大胆かつ山カン。砂糖の融解を待って、フライパンに蓋をして、細火二十分。

 十分経ったところで味見。怖ろしく酸っぱい。えぐ味のごとき苦味もある。が、こゝで狼狽は禁物。でんぷん質をばかりでなく、ほとんどの成分は煮込み十五分から糖質に変化するか、刺激味が抜け始める。やゝ思案。砂糖を二匙だけ追加する。

 私のレンジは目詰まり激しく、炎が偏っているので、当初二十分と思ったが二十五分煮て、蓋を取る。あとは果肉をつぶして煮詰めるのだが、さて。
 スプーンの背でははかが行かない。しゃもじの背では細部に行届かない。湯豆腐用の穴あき小しゃもじが最適と発見。こゝでも、日ごろ出番の少ない奴が大活躍。フライパンの側面に押付けるだけで、果肉は面白いように砕け、つぶれてゆく。
 つぶし始めて不安がよぎる。こうして視ると、けっこうな果肉量だ。これでシロップなどできるのだろうか。

 果肉はおゝむねつぶした。トロみも出た。が、圧倒的な果肉量。これでは上澄みシロップの沈殿物どころではない。果肉そぼろのみぞれ煮である。
 味見。とんでもなく美味。ただし食感は形容を絶する。即興判断。シロップは諦めよう。もっと煮詰めてしまえ。液状飲料を放棄して、ペースト状食糧にしてしまえっ。

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 できた。名づけえぬものが。冷まして、味見してみる。美味い。砂糖の量は、結果オーライだった。甘くなったが、酸味も苦味も残った。食感は、なにかに似ている。
 そうだ。つまり、私が拵えてしまったものは、カリンのマーマレードであった。

 こゝにひとつ、問題が生じた。朝食にはトースト、なんぞという習慣を失って久しい。復活させる気も、今のところない。用途をいかにしようか。またも閃く。
 カリン・マーマレード2に蜂蜜1を、白湯で割ってみた。これはいける。
 炊事しながらちびちびやる食前ドリンクは、明日から新メニューとなる。

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 冷蔵する。我が家ではほゞ出づっぱりの蓋付中鉢と、十五年以上ぶりに出番が回ってきたボトルとに収める。ボトルは、ネスカフェ様ご提供。