一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

カレーパン

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ファミマのカレーパン

 けっこう真面目に、カレーパンを食べている。

 日に一度のチャント飯、あと一回のテキトー飯の、一日二食生活が、まあまあ維持されている。テキトー飯は麺類だったりパンだったり、酒肴に変じたり、いろいろだ。
 ことに、ものを読みかけだったり、手切れの悪いパソコン作業のさなかだったりしようものなら、台所の時間がもったいなくて、買い食いも辞さぬ仕儀となる。

 最近、カレーパンというものを、よく食べる。小学生高学年のころ憧れだったにもかゝわらず、あまり食べられなかったカレーパンへの怨念が、この齢で蘇ったのだろうか。
 カレーパンは、アンパン・クリームパン・チョコレートパンよりも、少々高かった。コッペパンの腹を切ってマーガリンを塗ってもらうよりも、高かった。腹を空かせた子どもにとっては、味より量だから、カレーパンには憧れたものの、優先順位としては後回しだった。
 母は、私がコッペにかぶりついていれば、そうだろうネ、という顔をした。たまさかカレーパンを所望したりすると、
 「そんな大人みたいなものを……馬鹿になるヨ」
 と、険しい顔をした。

 ファミリーマートでの商品名は「ファミマのカレーパン」で、山崎製パンの多彩な商品群とともに並んではいても、いちおうオリジナル・ブランド商品だ。二個ないし三個の菓子パンもしくは惣菜パンを選ぶさいに、カレーパンとあと一個という組合せになることが、このところ多い。
 品切れ中の場合も稀にあるものの、まず二十四時間いつでも買えるという強味もある。辛さはほとんどない。味は悪くない。子どものお八つにも、大人の軽食にも用いられそうな、中庸の(どっちつかずの)味である。

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ベーカリーのカレーパン

 地元で人気のベーカリーのカレーパンには、ファンも多い。たゞし時間帯限定だ。
 朝七時半開店と同時に、二三人から七八人の短い行列が、なくならない。朝食用だろうか、多彩な惣菜パンが並ぶ。フルーツや生クリームを使ったお洒落なパンも混じる。
 これから出勤する客の弁当用だろうか、パック詰めされたミックスサンドやチーズカツサンドもある。店の奥が作業場になっていて、次つぎとメニューが増えてゆく。

 客のほとんどが定連またはリピーターだから、長年の経験で売行き予想も把握できているのだろう。一品完売のころには、奥から次のパンが補充されてくる。開店時の品揃えは、正午までにほゞ全品入換えになっている。
 午後になると、大人の間食や子どものお八つといったパンが多くなる。何種類かのアンパン、チョコレートやクリーム。そしてアンドーナツやカレーパン、つまり揚げパン類。午後も深まったったころ、食パンやバケットの登場。眼の利く奥さまがたが、明日の朝食用の食パンを選んでゆく。

 つまりだ。それぞれの生活リズムから、いつも決った時間にしか来店しないお客は、ベーカリーの全商品をご存じあるまい。
 そこへゆくと私は生活不規則者。開店と同時に入店して、買物了えたらこれから就寝、あまりの空腹に寝そびれても困るから一個だけ食べて、あとは起きてからのお愉しみ、という日もある。起床後たゞちに買物に赴いたら、ちょうど夕方の品揃えになっていた、という日もある。ベーカリー一日の商品展開の、ほゞ全局面を拝見してきているわけだ。
 午前中に行っても、カレーパンは買えない。午前用の品選びのコツは、別にある。

 まさしく揚げたて。他の商品と一緒の買物袋ではいかゞか、という熱あつのカレーパンを手にすることもある。こういう経験は、ファミマでは望むべくもない。
 それほどでないまでも、当日揚げのカレーパンだから、カレーはトローリとしていて、大人の舌向けに、味も辛みも深い。後を引く。かといって二個は食べられない。他にも食べたいパンがあるから。そこには軽いジレンマに襲われる愉しみがある。

 慌てなくても大丈夫。カレーパンを愉しむ時間は、まだまだやって来るから。
 半ズボンをはいて、年中膝小僧にすり傷が絶えなかった、小学生の私の、肩を叩いてやりたい。