一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

更新

f:id:westgoing:20220216085004j:plain


  とんでもない速報が入ってきた。われらが町田瑠唯キャプテンが、WNBAでプレイすることになった。二月八日、ワシントン・ミスティックスとの契約が成立したという。

 四月中にWリーグの全日程終了後、ただちに準備して渡米。五月から九月まで、ワシントンでプレイするとのこと。その後帰国したさいには、ふたゝび富士通レッドウェーブに所属して、プレイ続行できるとある。
 ということは、そのまゝ帰国しない場合も、ありうるのだろうか?

 続行中のワールドカップ予選のアカツキに、町田は登録されていない。ガード陣は山本(トヨタ自動車)、宮崎(ENEOS)、三好(トヨタ自動車)らだ。日本は現在、ガード王国であって、町田抜きでも国際試合でなんら遜色なく闘える。が、プレイの花という点では、という問題もある。
 オリンピック終了を機に、ヘッドコーチも交代したことだし、多彩な可能性の追求ということも、次世代養成ということもあろうかと、受取っていた。今のところ、新布陣も好調である。
 しかし町田温存には、こういうウラもあったのか。そうだったのか。

 町田のプレイスタイルの特色は、タテだ。速攻を誘発するタテパス。みずからゴールを攻めるタテの動き。そこへ相手ディフェンスを寄せておいて、サイドへのボール回し。当然ながらアシスト・ポイントが増える。
 オリンピックでの対フランス戦、18アシストというオリンピック新記録も、記憶に新しいところだ。Wリーグでのシーズンアシスト王は、すでに町田の定席の観すらある。

 体躯小型のチームでも闘えると、世界に示したことが、東京オリンピックにおけるアカツキの最大の功績だった。なるほど、それを試してみようじゃないかと、WNBAが身を乗出したのが、今回の契約だろう。楽しみである。

 町田が目指すガード・スタイルの先達はと、あれこれ考えたことがある。ジョン・ストックトンに行き着く。(巨きく出たねまた、と云われそうだが。)
 ユタ・ジャズに十九年間所属した、史上最高とも云われる、飛び抜けて小柄の名ガードである。大砲カール・マローンを縦横に使いこなし、この名コンビで得点を量産。一時代を築いた。ストックトン・マローンのラインは、来ると判っていても止められないと、どのチームもが口を揃えた。
 1984~2003の選手生活だったが、通算アシスト15,866、通算スティール3,265、シーズンアシスト1,164、シーズン平均アシスト14,54、アシスト王9回。いずれも不滅の記録だ。背番号「12」は、ユタ・ジャズ永久欠番である。

 意外や意外、ストックトン・マローンのコンビをもってしても、NBAのリーグ制覇は案外していない。伝説の名プレイヤー、マイケル・ジョーダンを擁するシカゴ・ブルズの黄金期にぶつかっていたのだ。ブルズ・ジャズの熱闘ファイナルは、今でも語り草だ。ジョーダンやピッペンら、ブルズの名プレイヤーたちが「あん時のジャズは手ごわかった」と回想している。
 なぜか? ストックトンがタテに攻めて来たからだ。ボールを運んでくるだけじゃない。フォワードやセンターにボールを入れるだけじゃない。みずから突っこんできて、それを抑えようと備えると、思いもよらぬ方向へパス回しされるからだ。

 そのジョーダンやピッペンストックトンがボールを回したのが、バルセロナアトランタのオリンピック。それまでのアマチュア規定を外して、プロ選手もオリンピックに出場可能となって、アメリカ合衆国からは、とんでもないチームが出てきた。世に「ドリームチーム」と称ばれた。
 試合内容など問題にならなかった。各国選手たちは、このメンバーと同じコートに立てたというだけで、感激した。無残な得点差など無関係に、このメンバーたちと嬉しそうに握手した。その時、マイケル・ジョーダンマジック・ジョンソンにボールを回していたのが、ジョン・ストックトンである。参加各国選手中で最も小柄。黒人選手がほとんどの合衆国チームにあって、彼らを使いこなす白人ガード。
 想えばあの時、小さくたってバスケはできるというメッセージが、世界に向けて発信されていたのだった。

f:id:westgoing:20220216101840j:plain

町田瑠唯富士通レッドウェーブ、No.10)

 町田のオシャレパス、キラキラパスなどと云われるそうだ。正式にはノールックパスという。味方選手の動きを察知すると、その選手があと二歩三歩でどの位置へ移動するかを直観。相手ディフェンスに対して、眼と顎の動きでフェイントをかける。結果として、まったく視てもいなかった方向へ、突然パスが出たように見える。
 町田に女性ファンが多い理由ともなっている、独壇場のプレイである。

 リオでも東京でも、オリンピック出場全チームのなかで、町田はもっとも上背が低かった。WNBAにも、町田より小柄の選手がいるとは、想像しにくい。身長162センチの選手がアメリカ合衆国のプロチームと契約。これは、途方もない挑戦だ。
 更新する気もなく、三十年以上もほったらかしにしてある、わがパスポートだが、さァて時間があるかなぁ。