一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

あえて

 昨年のいつ頃だったか、有名メーカー品のチョコレートを比較検討していた時期があった。今はしていない。

 カカオ含有率 60%、70%、80%。当然ながら含有率の高い商品ほど、苦味が濃い。ビター味、というのだろうか。各社の商品とも、ひと口サイズの薄切り板チョコが銀紙にくるまって、洗練された彩りの小箱に詰められていた。パッケージ・デザインには「ワインに合うチョコレート」などと、目立つように刷り込まれているのもある。お洒落志向の女性客をターゲットとした商品であることが、ひと目で判るデザインだった。
 いずれも各老舗メーカーのイチ押し商品だ。味はどれにも明確なコンセプトがあって、愉しめた。しかしひととおり試してみて、おゝむねかような世界かと、自分なりに承知したところで、考察をやめた。中間結論を出したのである。
 「フ~ム、悪くない。が、俺にはゼイタク過ぎる」

 で、どなたにとっても味にお馴染み深いミルクチョコレートが、小粒状で透明な包装紙にねじりん棒のように包まれて、袋のなかにガサガサ入っている、いわゆるお菓子屋さんのチョコレートに、このところ落着いている。
 子どもたちのおやつ、といった感じの菓子である。製造元は明治製菓でも森永製菓でもない。
 あと一枚書いたら、ひと粒舐めよう、などと考えながら、夜なべ作業のデスク脇に置いたまゝにしておくには、ちょうど好い菓子だ。
 こんな庶民的な菓子にも考察の余地はあって、ビッグエーの商品とファミマの商品とでは、味も形状もわずかづつ異なる。原材料の含有配分やカロリー値やひと粒当り単価なども含めて、いずれ比較検討してみようかと思っている。

 わが愛用のファミマ廉価菓子類にあって、最近の異変はと申せば、「鈴カステラ」が姿を消したことだ。形状から商品名が「鈴」となっているが、要するにベビーカステラである。祭や縁日の露店で売られている類の菓子であり、いち時に三つも四つもがっつこうものなら、口の中の水分がもって行かれてしまって、往生するような菓子である。
 長崎屋さんに対しても文明堂さんに対しても、はなはだ申しわけないが、「しっとりなめらか」だけがカステラではない。いやもとい、高級カステラは「しっとりなめらか」であっていたゞきたいが、庶民の口にとっては時として、パサついた下品な甘みも好ましい。粉っぽさや単純すぎる甘さを懐かしがり、あえて求める場合もある。

 ファミマの棚から「鈴カステラ」が消えたのはしょせん一時的なものだろうと、たかを括っていた。補充のタイミングか、私の入店周期の問題だろうと、気にも留めなかった。が、消えてからもう一か月が経とうとする。どうやらなにかが起っている。
 小麦の輸入価格高騰だろうか。それとも製造元とファミマ本社商品仕入れ担当のあいだでの、商談決裂だろうか。夜なべのおやつにはまたとない縁日の味で、選択肢のひとつにすぎなくはあったが、姿を消されてみると、ちと淋しい。

 縁日で視る庶民的菓子のうちで、もっとも好物は切山椒だ。これは子ども時分も今も変りない。
 老舗菓子司による和菓子としての切山椒は申すまでもなく、縁日の露店で味わう、半ば乾いてしまったような、コレ餅ですかゼリーですか、というような切山椒も面白い。
 これは追掛け始めるとけっこう奥が深い感じもして、あえて品定めしたり、味わい比べたりはしないように努めている。