一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

唄・まゝよ


 ♬人参はァ~ ヘタと尾落し 皮を剥きィ~
   ひと口大に 切ればしづけしィ~

 ♬じゃが芋はァ~ 芽とキズえぐり 真ふたつにィ~
   半皮のこし 面取りゆかしィ~

 ♬下茹ではァ~ 鍋大きめに 水多めェ~
   ぬるきうちより 具ぞ投じたるゥ~

 ♬いにしへのォ~ 匠の教へ 尊かりィ~
   菜は湯に投じ 根は水からとォ~

 ♬煮立ちよりィ~ 芋は八分 根は九分~
   昼夜で余熱 加減異なりィ~

 ♬なべてなきィ~ 今宵の嵩ぞ 根も芋もォ~
   雁もは揚げに 鍋の都合でェ~

 ♬あなかしこォ~ 世に時めきし 師や匠ィ~
   こゝまで弟子が あとは楽チン~

 ♬肝太くゥ~ 水の半量 酒注ぎィ~
   ちから借りなむ ショウガ切昆布ゥ~ 

 ♬おごそかやァ~ まずは一気に強火にてェ~
   砂糖投じて 煮立つ待つらむ~

 ♬沸きたればァ~ 醤油差しつゝ 細火としィ~
   落しふたせり あとは仏運~

 ♬デンプンのォ~ 糖となるには 十五分~
   その奥道は 鍋と相談~

 ♬あなかしこォ~ 世に時めきし 師や匠ィ~
   なべて仰せり 二十数分~

 ♬煮えたれどォ~ 味見できるは 明日ならむ~
   鍋と仏の 機嫌あらはにィ~

 ♬つね日ごろォ~ 鍋に仏に 嫌はれしィ~
   まゝよ食らふは 吾ひとりにてェ~

 ♬動観はァ~ 静観しのぐと 師の仰せェ~
   わが動観は なにをかしのぐゥ~