一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

梅雨冷

肉じゃがの鍋みはりをり今朝の梅雨

 このところ台所ばかり書いている気がしてスクロールしてみたら、果せるかなそのとおりだった。

 いかに世間さまとの接点が乏しいか、外出していないか、社会生活していないかを如実に物語っている。なかば望んで引籠っている恰好とはいえ、無様なものではある。
 加えてこの一両日の空模様だ。よほど必要な買物でもない限り、外出する気になれない。梅雨冷(つゆびえ)という語は季語になっているものの、関西・西日本ではあまり云わないそうだ。東日本気候の特色だという。冬をとおして普段着にしていたセーターを、昨日今日は着込んでいる。

 こんな日は、手間のかゝる常備菜でも仕込むか。先日、学友の大北君から贈られたご丹精の巨大玉ねぎを使わせていたゞく日がやっときた。

 

 人参とじゃが芋の皮むき、カット、下茹でが済んだところ。これから玉ねぎと豚肉の油通しだ。
 手早く確実に油通しするには、フライパンより中華鍋が好都合だ。料理番組の先生は中華玉しゃもじで豪快に油をすくって投入なさる。かつて恰好だけ真似してやってみたら、べちゃべちゃして油っこい具ができあがってしまった。家庭用都市ガスでは火力が弱くて、真似できない。油の多用は禁物だ。
 中華鍋を十分に熱したら、内側に油を広く薄く延してから、玉ねぎを投入。時間をかけて火を通す。炒めるのではなく、煎りあげる感じだ。
 豚肉の場合は、玉ねぎよりも油を要する。足りないとチリチリと焦げつく箇所ができてしまう。ともに油切りに上げておく。

 例により我流。水2、酒1の煮汁に、ショウガを刻んでかなり入れる。和風出汁の素で少々応援。下ごしらえした具材をいっせいに入れたら、この段階で砂糖も投じてしまう。
 懸念が悪いほうに的中。巨大玉ねぎに気分昂揚して具材たっぷり。縁いっぱいにまで達する、満杯鍋となってしまった。あとで落し蓋すると、すぐに噴きあがってきそうだ。火加減と噴き加減と煮え具合とのバランスをとるために、眼を離せぬ状況が到来しそうだ。

 アルミホイルを揉んでクシャクシャにしてから延し展げ、表面を覆う。いつもならそれで足りるが、今朝は具材が多すぎる。落し蓋で上から抑えた。
 沸騰してきてから、つねなら三分だが、今朝は細火にして念のため五分煮た。アルミホイルを外す。裏のシワシワに脂と灰汁がべっとり着いてくる。これで、玉しゃもじで何度も灰汁取りをする必要が、まったくなくなる。
 コツは、ホイルをできるだけきめ細かくクシャクシャにすることだ。たゞし延し展げるさいに、破れやすくなる。ほとんどの場合、どこか破れる。つまり手加減が要る。

 ようやく醤油を投入。あとは落し蓋をして、上蓋もして、コトコト煮るだけだ。たゞし今朝は、すぐ噴いてくるので、上蓋の隙間調整もしくは着脱切換えが必要となる。
 二十分か二十五分、本を読んでもなにをしていてもかまわぬ時間となるはずなのだが、今朝に限っては、眼が離せない。

 そうだった。大北君から贈られたのは、玉ねぎのほかに蕪だった。こちらはひと足さきに甘酢漬にして、予想以上の大成功。すでに毎食少しづついたゞいている。