一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

牽強付会

 
 大北農園から直送の玉ねぎ、最終の一個を、つゝしんでいたゞく。

 スライサーで薄削ぎにし、スライサーの刃から逃れた部分には包丁を入れる。とにかく向うが透けて見えるほどにはしたほうがよい。
 真水に浸けておく。時間は適当。とくに考えはなく、同時併行の作業次第。途中で数回、軽く揉む。というか掻き混ぜるていど。晒せたら、いったん掌と指で握るように搾る。搾りは、ギュッではなく、ギュウ~ッと。瞬間搾りでは、玉ねぎの辛味が出切らぬ気がする。「ウ~ッ」の間にザルから滴る水分が、抜きたい水分なのだ。
 腕の立つかただったら、これで仕舞いだろうが、私は念のためもう一度、水に浸ける。一度目より時間は短い。再度、ギュウ~ッとしてから、ザルにくつろげておく。

 我流の甘味噌ドレッシング。味噌と酢と砂糖。配合は毎回適当。木のスプーンでよく掻き回して、馴染ませるだけ。水切りした玉ねぎを器に盛って、シソふりかけや擦り胡麻。で、我流味噌ドレ。食べるときにグジャグジャにする。つまりはオニオンスライスの、ぬた和えだ。
 生の玉ねぎは辛味の強い野菜との先入観は、捨てることになる。独特な甘味野菜である。ぜいたくな量の玉ねぎを、さっぱりと美味しく平らげることができる。

 おりしも同日、大北農園から直送のじゃが芋、最後の四個をつゝしんで煮る。人参は永遠の相棒。定連ゲストの雁もどきには、今回お休みいたゞいて、ゲストは竹輪と油揚げ。それに薄切りショウガを適当に。
 油揚げは、商標に「昔ながらの」「手焼き風」などと表示される、薄く緊まったものに限る。「ソフト」「ふっくら仕上げ」「食べやすい」などと表示される商品は、煮物には要注意だ。もっともこれは、私の味覚・私の煮かたにおいてはであって、一般性はない。眼に着く限りをとっかえひっかえした揚句の、私なりの中間結論だ。

 弁当箱大のウェア二個分の仕上り。ぜいたく豪快に食べて、四食分といったところか。
 大北農園の蕪はすべて薄切りにして、浅漬けにした。一人家族には大量にでき過ぎたかと思ったものだったが、毎日少しづついたゞくうち、数日前に完全にヤマとなった。
 他にいたゞいたものとしては、鷹の爪があるが、これは消費を急ぐ必要がない。おりおり大切に使わせていたゞきながら、自然乾燥が極点にまで至ったところで粉に引いて、ほかのなにかと合せて、唐辛子調味料とする。昨年は五味唐辛子だったが、今年はさてなにと合せることになるか。

 こういう食事をいたゞいている限り、夏も乗切れよう。現役社会人の時分から、夏は忙しかった。下請け仕事、片付け仕事、処理仕事を請負う者にとっては、発注主さん・元請けさんがペースダウンなさりたい時期が、こちとらの書入れどきとなる。夏季の健康管理は、ことのほか重要となる。

 一昨日月曜日、珍しく午前中から起きていたので、郵便局への用足しがてら近所をふらふらしていたら、ゴミ回収車とトラックとがコンビのように停車して、お二人が作業しておられた。このあたりは月曜が資源ゴミ回収日だ。早朝のうちに、道筋何十メートルか間隔に色分けコンテナが配置される。そこに分別廃棄された瓶・缶・ペットボトル・発泡スチロールほかの樹脂ボトル類を、回収しておられる。

 道の対岸に立って、しばらく眺めさせてもらった。同色コンテナの中身をひと籠に寄せることで、空きコンテナがいくつもできる。畳んで平べったくして、トラック荷台の前方にうず高く積上げていく。擦切り一杯となったコンテナは二台後方に積上げてゆく。もっともそれは固形物たる瓶・缶のみで、圧縮可能なペットボトル・発泡スチロール類は、通常の青塗回収車に圧縮回収されてゆく。
 なるほど、圧縮回収されたゴミを処理センターに放つとき、ペットボトルと発泡スチロール類とを容易に仕分けられるように、初めから発泡スチロール類だけネットに入れるように指示されていたわけだ。瓶・缶・ペットボトルをコンテナに、発泡スチロール類のみネットにと、分類指示されていた理由は、どうやらこれだ。

 お仕事のお邪魔をしては恐縮とも思ったが、話しかけてみた。
 「たいへんなお仕事ですなあ。二台でこの町一丁目分くらい回収できるものですか? いや、とうてい無理そうにお見受けしますすねぇ」
 お若いほうの作業員が目を丸くして、無言のまゝこちらを眺めた。年かさのほうが軍手をヘルメットの縁にかざしながら、
 「この時期は、増えますんでねぇ。少ない季節であれば、町内丸ごとゆけるんですけれども」
 教わってみれば、もっともだ。ビールやドリンク類の消費量が桁違いに増える。最終回収時での季節変動には、無知なものにとって想像を絶するほどのものがあるのだろう。
 「どうもご苦労さまです」「いえ、どうぞお気をつけて」と声掛け合って別れた。当然だ、当然だ……。ぶつぶつ独り言を発しながら歩いた。
 末端処理部門には、季節変動が避けられない。いや、これは牽強付会か。