一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

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  ワシントン・ミスティックスでの町田瑠唯。予想どおり大型選手に手を焼いています。が、予想どおりスピードと視野の広さと、瞬間判断の的確さと、パスのセンスと技術は、光っています。
 これも予想どおり、世界一小型のポイントガードは、ワシントンのファンからも、人気を集めています。WNBA では試合後のファンサービスが手厚いのですが、背番号13 のレプリカ・ユニフォームを着たファンたちが行列して、背中に瑠唯からサインを書いてもらうのを待つ動画が、公開されています。

 控えのポイントガードとして全試合に7分から20分、出場しています(試合時間40分)。国内試合では通るパスが、思わぬ距離から腕が伸びてきてカットされるということも、シーズン開幕当初はありました。だいぶ調整されてきましたが。
 オフェンスでのボール運びとパス回しが注目されがちですけど、視落せないのは瑠唯のディフェンスです。マークが厳しい。しつこい。並の選手なら、相手がシュート体勢に入ったところで視限るか、ゴール下ディフェンダーに任せるかするところを、エンドラインまでついてゆきます。制空権を獲られても、相手の腰にへばり着いていますから、ディフェンス効果はおゝいにあります。

 視落されがちでしょうが、相手のスクリーンプレイに対する身のかわしかたが、ことに光ります。これもスピードあってのことですが、小型であることを活かした技術ともいえます。たとえば直近の対アトランタ・ドリーム戦でも ――

 相手のポストプレイヤーがスクリーンを仕掛けてきました。それを目がけて、ガードプレイヤーがドリブルで突っ込んできます。
 瑠唯はこのときすでに、スクリーンの存在を視野の隅に捉えています。


 スクリーナーはやる気マンマン。瑠唯がどうでもドリブラーに着いてくるというなら衝突してもかまわないとばかりに、腰を備え、肩にも肘にも覚悟の力がこめられています。普通ならこゝで、スクリーンプレイが成立します。
 が、それをかわそうと瑠唯は、右肩を入れ、肘を折り畳んで、ドリブラーに密着します。全速プレイ中にこれは、かなり高度な技術です。


 スクリーナーはこの時点でさらに瑠唯に躰を寄せにゆくと、ブロッキングの反則となりますから、その場で踏んばるしかありません。
 瑠唯の左足の白いシューズが見えましょう? ドリブラーはまだ右足です。このあと左足を踏み出そうとする方向に、一瞬早く瑠唯の足が出てゆくというわけです。
 このあとドリブラーの左足は、思い描いたよりもゴールから遠い位置に出さざるをえません。思い描いた位置には瑠唯の右足が出てきてしまうからです。つまり一歩のスピードによる勝ちです。結果として相手ドリブラーとスクリーナーのあいだに、彼女らが想定したより以上の隙間が生じるわけです。

 アレ、アレアレ! 擦り抜けちゃった?
 スクリーナーにとっては、案に相違した結果となりました。
 ドリブラーはこゝでフリーになるつもりだったのですが、まだ瑠唯がついてきます。
 普通ならこのスクリーンプレイで、マークスイッチが起ります。それまでスクリーナーをマークしていたディフェンダーが、緊急事態をカバーすべく、ドリブラーのマークへとスイッチし、瑠唯がスクリーナーにへばり着くことになるわけです。こゝでも当然そうなることを予期して、ポストポジションのディフェンダードリブラーのマークへと、動き始めています。たぶんそれでは間に合わす、ドリブラーがこの位置でジャンプシュート、もしくはどこかへ余裕をもったパス出し、ということになっていたでしょう。ところがどっこい、この場合は、瑠唯がまだしつこく、ドリブラーに着いているというわけです。
 YouTube 上には、瑠唯の活躍場面だけを切取って集めたチャンネルもあります。アップしてるのは、むろんアメリカ人です。