一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

よだん

 



 多肉植物の寄せ植え。金属垣根の内側に、お揃いの籠鉢で異なる景色がズラリ。珍しくもゆかしきご趣味だ。

 酷暑の時間帯。突如として雷の遠鳴り。出そびれた。午前中に出掛けるのだったと、かすかに悔やむ。気の弛みで、平常の悪癖に戻り、正午近くの起床となってしまった。今日は散髪屋さんへ伺おうと、心づもりしていたにもかゝわらず。
 明日は、珍しく外出して面談予定。雑誌編集者さんと、取材ライターさんと、カメラマンさんのお三人。特集企画にそった、昔噺をご所望とのことだ。とくだんの準備などいたしかねる内容のようなので、いつもの悪癖、出たとこ勝負のブッツケでゆくと決めた。
 かとは申せ、耄碌老人のむさ苦しさが全面に匂い立つようでは、あまりにご無礼というもの。せめて散髪くらいはと、思いたったわけだ。

 月に一度の浮世床。お話し上手のマスターはまた、数かずのお客様からの耳より噺を貯蔵しては、適宜取りだす情報センターだ。
 米下院議長が訪台したことで中国政府はどう出てくると、日本留学中の中国人学生は視ているかという噺。
 猫も少子化傾向で、クリーニング屋の飼い猫が六匹も産んだのは、近来ではめでたいほうだという噺。
 古道具屋やガラクタ市の流行商品が、近年変化してきたという噺。開設して間もない塾が、早くも経営難だという噺。
「こう暑くちゃやりきれない」をベースに、あっちへ伸びこっちへ発展して、またベースに戻る。あっという間に、私の頭は丸刈りにされてしまった。

 刈り了えるのを視計らったように、ご母堂手づから冷たい麦茶と甘味のおもてなし。腰と膝のお加減は、その後いかゞといった話題。病院が混むといった話題。
 ご先代の思い出噺。というのもご先代は越後長岡のご出身だったから、拙宅同様にお盆は旧だ。間もなくお盆となるから、お墓の掃除やお詣りの予定を立てねばならない。貴重な情報交換だ。

 ところで、散髪屋さんへの道筋には、多肉植物をあっぱれお見事な寄植えに仕立てられ、陳列しておられるお宅があって、かねがね敬服しつゝ、しばし立停まって眺めさせていたゞいている。
 多肉植物やサボテンの類は、もと環境劣悪な逆境に棲息する植物だから、おいそれと成長したりはしない。肉厚の葉や身に水分・養分を抜かりなく貯蔵して、次なる受難期に備える。好環境が続いた場合にのみ、用心深くわずかづつ身を大きくしてゆく。
 したがって、あまり著しい変化はあるまいと高を括っていたのだが、案に相違して、驚くなかれいずれの種類も背丈を伸ばし、元気よく成長していた。多肉植物についての私の先入見は乱暴に打ち砕かれた。熱暑にして湿潤という日本の夏が、彼らにはよほど心地良い環境なのだろうか。

 予断を覆された面白さに、当然のことながらシャッターを切った。そして当然のことながら、こゝには上げられない。