一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

目盛


 今朝の戦場は拙宅南側、旧建屋との間に挟まれた幅三メートル、所により四メートルの細長い地帯。塀の向うはコインパーキングだ。

 真昼こそ旧建屋の陰になるものの、午前ほんのいっときと午後ある時間帯には斜めに陽が射すので、植物も活発だ。始終日陰の北側とは異なり、花を着けたり、ふいに現れてあっという間に周期を了えていったり、陽気な連中が多い。じっくり力をためて根や地下茎を伸ばしてくるような、しぶとい連中は少ない。
 例外はヤブガラシだ。こいつだけは陽当り・風通しにかゝわらず、東西南北いずれからも芽を出し、あっという間に蔓を伸ばして、ほかの植物だろうが、壁や塀や雨樋だろうが、なんにでも絡みついて勢力拡大する。
 たゞしコイル状に巻付くわけではなく、蔓の節から出たかすかな突起でひっついているだけだから、引っぱって芋蔓式に辿れば、地上から芽を出した場所まで辿れる。ちょいと眼を離している隙に、蔓は三メートルにも五メートルにもなる。

元気乏しい君子蘭の古株を制圧にかかるヤブガラシ

 南側の草をむしると、様ざまなものが出てくる。土鉢およびそのカケラやプラ鉢。かつて母が園芸作業場としていた名残の残骸だ。隅に寄せておいては、溜ると不燃ゴミとして出しているが、なかなか追いつくものではない。
 水桶代りにしていたポリバケツが、経年劣化でもろくなり、砕けたカケラが散らばっている。いずれは丹念に拾い集めねばならぬが、あとまわしとする。

 武田邦彦さんのユーチューブで、眼を啓かれたことがあった。海洋汚染について語られた回だった。
 ――プラスチックゴミが海を汚し、地球を滅ぼすなんてのは、嘘ですよ。プラスチックの原料は石油。つまり生物由来の製品ですからね。海底に堆積しようが海流に乗って遠くまで行こうが、時ば経てば地に返るんです。云々。

 たしかにさようだろう。台所の収納ラックから出てきた、古い食器や重箱など什器を包んでいたレジ袋が、取出そうとした瞬間にこなごなに砕けてしまって往生した経験はいく度もある。ビニール袋も同様だ。
 丈夫かつ精巧な樹脂製品だといっても、三十万年もするうちには溶けて砕けることだろう。地球を窒息させる力など、あるはずもない。さようにはちがいないのだが……。
 浜に打上げられたイルカの死骸を解剖してみたら、胃袋から大量のレジ袋が出てきたとか、放棄されて海上を漂流していた漁網が足にからまって、飛び上れずに死ぬカモメが絶えないなどとも耳にする。イルカやカモメは地球とちがって、三十万年も待てなかった。つまりは目盛の問題だ。

 年を追うごとに、草むしりが億劫になる。間遠になってくる。ユーチューブ動画の合間に、素人でも安全に扱えて効果抜群という、除草剤の宣伝が挟まっている。
 使ったことはない。厄介な植物に混じって、毎年顔を出してくれるのを愉しみにしている連中も、少々はある。ミミズや、昆虫の幼虫類や、地中微生物にとっても、好ましい効果であるはずがない。
 だが当方の体力・能力の問題は厳然として実在する。蚊が湧いたりしてご近所にご迷惑をおかけしていないともかぎらない。今のところ、どなたもおっしゃって来てはいないが。これもまた、目盛の問題なのだろうか。

今朝の三十分作業。

 ポリバケツ残骸のカケラをいつ拾い集めるかと考えていたはずが、妙な脇道へ迷い込んだ。今日は時間切れだ。
 本日の拾得収穫。ガラスコップ中小二個。鉢植え作業をする母が、土か肥料かをすくったものだろう。いずれも厚手ガラスの使い勝手よろしそうなコップで、台所で役立てることとする。
 刈草ふた山。こちら側は陽当りも風通しもよろしいし、雨にも当るので、埋戻しできるほどにまで萎れ、乾燥する速度は、東側・北側よりもはるかに早い。