一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

〈口上〉五百日


―― 東西とぉうざ~い (チョン!)
 暑さ寒さも彼岸まで。いずれもさまにおかれましては、猛暑ございましたる夏をご無事にて乗切られ、佳きころおひをお迎えのことと、心よりお慶び申しあげます。

 さて当「一朴洞日記」は、昨年五月三日に第一回を申しあげましてより、本日をもちまして五百日連続の投稿と、あいなりましてございます。だからナンダ? ではございますけれども、手前一個にとりましては小さからぬ区切りのひとつには違いなく、御礼をかねましてひと言、ご挨拶申しあげる次第にございます。

 生来のものぐさにして怠け者。寄る辺なき無職の独居老人。加えて持病もあり、大病を得て入院加療の経験もございます身にて、なにごとにつけましても小さく控えめに暮しおる毎日。日記として取沙汰するに足る耳寄りな見聞など、今さらあろうはずもなく、たゞたゞ記憶の断片に、思いつきの独断を添えたるにすぎぬ日々の妄言。かような反故文言を、あろうことか五百日も投稿してまいることができましたのも、ひとえにお力添え・お励ましを賜りましたる、いずれもさまのおかげと、心より感謝いたしおる次第にございます。改めまして、ありがとうございます。

 ところで、四百九十日目あたりからでございましたでしょうか、手前のデスク脇の置書棚の側面を、一匹のクモが毎日のように散歩しております。同じあたりを下から上へ散歩いたします。あるあたりまで登りますと、突如として消えたかのように飛び失せます。しばらくいたしますと、下のほうからまた登ってまいります。
 餌を探しおるのでございましょうか。巣(罠)をかけるに適当な場所を物色しおるのでございましょうか。ですがさように差迫った要用あるやにも見えません。いやそれよりも前に、クモの顔立ち表情などとてものことに視分けつけがたく、同じヤツが繰返しやって来ているのか、同種の別個体がいれ替りたち替りやって来ているのかも、判断いたしかねます。

 日ごろ手前は、ハエと蚊をわが暮しに邪魔なヤツと考えておりますが、クモとヤモリは共生すべき味方と考えております。けっして邪険にはいたしません。
 で、コイツに対しましても、むやみに追い払ったり退治したりはいたしませず。彼の存念をとことん聴かせてもらおうと思いおる次第でございます。
 まさかとは思いますが、「お前、もうすぐ五百日だぞ、またウッカリすんじゃねえぞ」と注意喚起に来てくれているのだとすれば、明日からは出てこないはずでございます。

 五百日を超えましても、日記の理念にはなんら変りございません。天下国家を語らず、けっして読者さまのお役に立とうなどと考えず、過去の記憶と身辺のどうでもよろしいこととに、独断妄想を添える。かような覚悟にございます。
 たとえば書棚側面を連日クモが登ろうと、政局にも国際情勢にも関りございますまい。同一クモか別クモかなど、いずれもさまのお役に立つ気づかいはございません。そしてクモの奴めが、私に注意喚起してくれているにいたっては、私一個のはなはだしき妄想でございます。
 が、手前が今後も書いてまいりたきは、かようのことにございます。はなはだ意気揚らぬ、縁起とてよろしくない申しあげようで、まことに畏れ入りますが、区切りを機に、ひと言ご挨拶申しあげます。いずれもさまにおかれましては、今後ともよろしくご声援賜れますれば、身の光栄これに過ぎるはございません。なにとぞよろしく、おん願いあげ(チョン!)たてまつりまする~。

再掲。