一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

ガリ



 はてなブログの時系列アクセス数グラフ。あゝ、ワールドカップの試合が始まったんだな……。

 俳優座劇場に勤務され、舞台制作のお仕事をなさっている宮澤一彦さんが、ツイッターで呟かれた。
 「サッカー、盛上ってたみたいですね。そんな時に30歳も年上のかたと芝居談義にふけって終電逃してるのって、やっぱり非国民? いゝえ、多様な社会というやつですよ」


 私はその頃、生姜を洗っていた。ガリ、甘酢生姜造りである。
 くびれた部分に包丁を入れる。泥や汚れを落し切れぬ場所だからだ。皮の硬くなった部分や変色した部分を、スプーンの縁でこそげ落すように剥く。私の包丁技術では、剥き過ぎになってしまうからだ。
 大北君から送っていたゞいた新生姜の、これで三分の二ほどだ。あとは日常の調理に少しづつ、愉しみに使わせてもらうこととする。


 繊維の目に沿ってスライス。こゝはさすがに包丁だ。厚さは二ミリ以下、一ミリ以上といった感じか。それより薄くしようとすると、私の包丁技術では、かえって不揃いになってしまう。
 上から構図では表現できぬが、皿にてんこ盛り。俎板周辺に、芳香がたちこめる。

 鍋にたっぷりの湯を沸騰させ、浅く茹でる。一分でよろしいと教わった記憶があるが、私のガスレンジは老朽化と目詰まりのため、穴の三分の一ほどが不完全燃焼だったり炎が細かったりしているので、念のため二分。
 ザルにとって塩を振りかけ、馴染ませる。塩は四摘みほど。先生がたが小匙半分と表現なさるくらいだろうか。塩ひと摘みは二本指、塩少々は三本指。それくらいは知ってる。そのまゝ粗熱取り。

 漬け酢は沸した出汁に塩やはり三か四摘み。砂糖は私の砂糖壺専用スプーンで五杯。米酢を差す。出汁三に酢二の割合。味見してみたら、砂糖が圧倒的に足りない。かなり入れたつもりだったのに。慌ててスプーンに二杯追加。先生がたの表現だと、大さじで四杯も五杯も入れた計算となろうか。
 こんなに入れるのか、砂糖汁だな、これは。で、こちらも粗熱取りに入る。

 粗熱を飛ばしていた生姜は、水蒸気と塩効果とで、かなり湿っている。手のひら大に取った生姜を、寿司を握るような手恰好で、固く絞る。漬け酢を吸ってもらうには、この工程が欠かせない。例により技術に自信がないので、一度絞った生姜をザル上にほぐして、もう一度絞った。
 粗熱を取り切れずに、まだ温い漬け酢に、ほんのり温かいスライス生姜を投じて、冷ます。冷蔵庫に収めてもかまわぬ温度まで下ったら、冷蔵庫行きだ。

 今夜はワールドカップで、日本チームの緒戦だという。ま、いいか……。