一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

独走状態


 ニラではないから、食べられない。

 建屋の裏手へ回るための踏石と、ブロック塀とのわずかな隙間に、食べられそうな細羽を繁らせている連中がある。球根にだろうか、葉や茎にだろうか、かなりの毒性があるらしい。植替えなどで触った場合には、よく手を洗ったほうがよいと教わった。口に入れるなど、もってのほかである。

 まだ寒風が強く、草ぐさの旺盛な芽吹きにはなっていない。タンポポ類もドクダミも、姿を見せていない。恐るべき発展性をもった蔓草類もヤブガラシも、地上部への活動はまだ開始されていない。塀沿い、踏石沿いにわずかに姿を見せているのは、クローバに似た三つ葉を見せる、ごくミニチュアサイズの矮性草くらいのものだ。

 今現在は、この連中の独走状態である。が、陽気が良くなるにつれて、そうではなくなる。可憐な花を装って生命力強烈な連中や、人の眼を盗むむくつけき蔓草類が襲いかかってくる。気を抜いていると、この連中すら埋没してしまう。
 冬のあいだに、うるさい奴らの地下茎を断って、横への発展を制限した。が、一部であって、全面的にではない。そこまでは手が回らなかった。やがて大軍勢がいっせいに襲来する時期には、私一人では防ぎがつきかねる。

 だから今のうちに、思うさま力を蓄えておいて欲しい。
 いつ頃からだったか、どこからかやって来て拙宅に着地した連中であって、私の意志で植えた園芸植物ではないから、肥料を差したり陽射しを調節したり、水やりを管理したりまではやらない。周囲の草ぐさの跳梁跋扈に気を配るのがせいぜいのところだ。

 志を遂げて花を着けることができれば、私が安堵するのみならず来訪者さまがたにも、かなりお悦びいただける連中である。白花のヒガンバナ曼珠沙華)だ。