一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

どちらでも


 つまるところ、バニラか……。

 日ごろ忘れたように過していながら、ふとしたきっかけで食べ始めると、マイブームとばかりにしばらく定番デザートもしくは間食として食べ続けるものに、アイスクリームがある。現代にあっては、味にも形態にも、私の想像をはるかに超える多種商品があって、目移りする。あれこれ試みたあげくに、結局はカップ入りのバニラアイスクリームに戻ってくるというのが、多くのかたがたの実状ではなかろうか。私もさようだ。

 夏が来たからアイスクリーム、というぐあいには、私の場合はならない。しばらくは念頭にも浮ばない。猛暑の日が続いて、どうにもやりきれないとなって、そうだアイスクリームという手があったと、遅まきながら思い出す。そこからが手間どる。さてなにを定番とするか。昨年実績はご破算にして、改めて考えてみたり、比較検討してみたりする。この一年に新商品も出てきているようだし、バージョンアップや装い変更もあるようだからだ。
 三角コーンに盛られたソフトクリーム型が、まず念頭に浮ぶ。子どものころ、食べたくても買ってもらえなかった憾みから、あの形に憧れか執着があるためだろう。なん年かのあいだは、まずここから始めていた。が、今食べてみれば、ありがたいものでも食べやすいものでもない。量的なお得感もさほどない。数年前から、三角コーン型にはまったく食指が動かなくなった。
 で近年は、モナカから始まる。これがまた種類が多い。ひととおり試してはみるが、ジャンボチョコ・モナカへ戻って来る。が、いくら冷凍庫に保存しても、時が経てばモナカとクリームが馴染み過ぎる。飽きてくる。やはりカップ入りか、となるころには、猛暑の盛りを過ぎていたりする。

 カップ入りの長所は、多様な味を愉しめるところだ。とはいえひとつに夢中になると飽きが来るのも早く、結局はバニラに戻る結果となるのは眼に見えている。今年は二種類づつを併行して買ってみて、勝抜き戦方式を採った。
 まずバニラ対チョコミント。意外にもチョコミント善戦で甲乙つけがたいまゝ二週間経った。ひとまず休戦として、バニラ対抹茶。すぐ決着がついた。問題にならない。世に抹茶々々と大騒ぎする風潮があるのが信じられない。抹茶味を愉しむ方法は他にいくらでもあって、アイスクリームが適当な土俵ではない。組合せによる比較印象という問題もありうるから念のため、抹茶対チョコミント。これもあっさり決着で、抹茶は以後長く消えることとなろう。新選手登場でチョコクッキー対チョコミント。単品では心惹かれた(舌も惹かれた)チョコクッキーだったが、チョコミントと比較検討すると相手にはならない。チョコクッキー対バニラという裏付け戦は、まだやっていないが、おそらく評価が動くことはあるまい。
 繰返すが、単一味に集中すると飽きが来るのも早い。今年はバニラとチョコミントの二商品併用でゆくことと決定した。ようやく結論を得て、気分が落着いた。自分流に検証を重ねて、納得の方針が定まったことは、暮しの安心立命の観点からも、よろしいことにちがいない。たゞし陽気はすでに涼しくなってしまったが。

 砂糖壺が底を突いた。一キログラム入り徳用大袋で買って、大本・中分け・小分け壺の三段階運用しているが、最後の小分け壺も残り少ない。買物リストに入れた。
 いつのことだったか憶えちゃいないが、前々回の砂糖買いのさい、いつもの白砂糖がたまたま入荷切れで、白茶というか黄色味を帯びた姉妹商品を買った。気のせいか甘味がかすかに優しい。これはこれでいゝじゃないかと、前回買物のさいには、純白もあったが、あえて黄色味を選んだ。

 

 と、今回は黄色味が棚に品切れで、純白のみ在庫。こだわらずに買った。一日待てば補充入荷されるのだろうが、こだわるところではない。煮物・酢味噌・三杯酢の味が決定的に変るとは思えない。インスタント珈琲や紅茶もさよう。なにも砂糖そのものを舐めるわけではないのだから、どちらでもよろしい。
 が、アイスクリームのほうは、どちらでもというわけにはゆかない。バニラ対チョコミントの対決は、容易には決着を視ないかもしれない。勝負は肌寒い時期にまで、もつれこむかもしれない。
 申し忘れたが、私は涼しくなろうとも、平気でアイスクリームを食すのである。だからこそそのマイブームを脱したあかつきには、翌年の夏になっても、アイスクリームが念頭に浮ばなかったりもする。