一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

2022-03-01から1ヶ月間の記事一覧

ザックザック

ふと、気になったりする。 「○○円になります。袋おつけしますか?」 「持ってます、ありがとう。△△円からお願いします」 「毎度ありがとうございます」 「お世話さま、いたゞきましたァ」 ベーカリーと八百屋と、ファミマとビッグエー。今週に入って、これ以…

家庭用のガスバーナーでも、長年にわたって焙り続ければ、ステンレスだって膨張する。 母に代って台所を預かるようになって、二十年あまりとなる。その間に私が選んで新規参入したのは、包丁と中華鍋くらいだ。多くは母が買い揃えた調理器具たちである。 た…

北川はぼくに

頭で考えたことってもんは、おゝむね言葉にできますな。当然です。だって言葉を用いて考えたんですから。そこへゆくと、心に感じたことってのは、言葉で云い表せない場合がございます。手持ちの言葉の数が足りないんですな。 ましてや視ただけのこと、たゞ在…

先頭

吉田喜重監督『エロス+虐殺』(ATG、1970)プログラムとチケット 岡田茉莉子(伊藤野枝)、細川俊之(大杉栄)、高橋悦史(辻潤)、楠侑子(正岡逸子)。 つい最近も、伊藤野枝を主人公とする映画が公開されたという。自分の生命力に忠実に、力強く生きて短…

欲しい

香月泰男(1911-1974)「生誕110年 香月泰男展」図録より無断で切取らせていたゞきました。 苛酷なシベリア抑留体験を、黒と灰色を基調とした息詰まる緊張感に貫かれた画面に定着して見せた画家として、あまりに有名だ。 『私のシベリヤ』(文藝春秋、1970…

ポンプ

私はこの水で、タンコブ冷したり、傷口を洗ったりしたことがある。六十数年前のことだ。 ご近所は花ざかりである。庭木としてお手入れされた花木類が花をつけているのは、そりゃあお見事。鉢植えやプランタを、お玄関先やお店の出入口脇に並べておられるのも…

選択

司修(1936- )銅版画、拙宅玄関内に長らくご逗留中。 思わぬ経緯から一昨日、記念品として美術品をいたゞいてしまったことがきっかけで、そうだ、ふさわしい次の所有者へと正しく手渡さねばならぬものもあるよなあ、ということが思い浮んだ。 もとより美術…

内緒

先陣を切って。 玄関から門までのわずかな地面に、斥候兵がやって来た。あたりを丹念に観まわしたが、連れはないようだ。 寒い、億劫だ、雨がなかなか上らないと、延ばしのばしにしていた食糧買出しに出ようとしたら、今年の先兵に出くわした。この仲間は罪…

ふたつの世界

風祭竜二切絵版画『金剛院全景図』、昨日よりご逗留中 開創五百年記念品として、金剛院さまより額物を拝領した。風祭竜二画伯による切絵版画。 さっそく仏壇脇に飾らせていたゞくが、こういう作品は永く残る。むろん私が現世を了えても、次なる持主の手へと…

買いかぶり

わが家の開花宣言は三月十九日で、東京都(靖国神社の桜)よりも一日早かった。が、これをしも、花冷えというのだろうか。今日は冷たい雨である。山沿い地域は雪もよいとも聴く。 宣言の数日前から、いつ開花してもおかしくないほどに、ツボミは充実してきて…

岩塩の袋

どういうもんでございましょうかねぇ。いつの世にも、戦争というものは、絶えることのないもんのようで。 「奥地では、塩はまことに貴重である。よって一人ひとりが運ぶのだ。もしこれを失ったり、自分で摂取しようものなら、軍法会議ものである」 曹長殿は…

春彼岸

絶好の墓参り日和だった。 いつもどおりに明けがた就寝してしまうと、寝過してしまう。徹夜と肚を括って、山積みの雑用を少し追いつくことにして、朝を待った。二十四時間スーパーにて買物。パソコンに向って、ソフト相手に二局ばかり碁を打つ。朝食。起きぬ…

開花宣言

靖国神社の桜樹に三つだったかいくつだったか、花が来たら東京の開花宣言とするそうだ。たしかどちら側の何番目の樹と、目安になる樹も決っていると聴いた憶えがある。 拙宅は本日三月十九日をもって、開花宣言とする。 地面から距離もある梢近くで、白雲に…

常識学

中江丑吉(1889-1942)。北京にて、1937年3月、鈴江言一撮影。 ボケ切らぬうちに、聴けることは聴いておけ。お若い友人から、過去の文学についての噺を求められる。望むところだと応えたきところなれど、問題がひとつ。 私ごときにお訊ねあるは、せいぜい過…

閑か

弥勒菩薩像、開山五百年護符カード。 菩提寺金剛院さまは、寺を開かれてより五百年になられる。記念行事のいっさいは時局に鑑みて、残念ながら取りやめとなった。 記念法要は、寺内にいく体かおわす諸仏のうち、弥勒菩薩さまをご本尊として、おこなわれる予…

嫩芽

日いちにちと春めいてくる噺ではなくて、日ごとにゴミ屋敷とまりまさる拙宅の深刻問題。改善に向けて、日和の好い日には一歩でも前進をと、厚紙箱と段ボール箱を宅じゅうから大招集。解体作業に手を着ける。 なにかに役立ちそうだと、完全解体せずに積んでお…

ならじ

田中小実昌(1926-2000)『文藝春秋 芥川賞・直木賞150回全記録』より無断で切取らせていたゞきました。 表立ってのお役目を了えて、人さまになんら影響することありえぬ身になっての無責任ゆえに、見えてくることもある。 「近代文学」という古典芸能の一…

不発

危ない! もう咲きそうだっ。 そりゃあ、あんまりにもベタな春ってもんで……。 昨夜から今朝もまた夜型読書。眼の奥がかるく痛むような、かすかにたかぶって眠りたくないような、気分・体調ともに半端な、陽気の好い午前。 安眠するにはかるい運動か、とばか…

ヤツデ

ヤツデはヤツデ、松は松。確かにな。メダカの兄弟が大きくなったところで、鯉にも鯨にもならないなんて歌詞も、昔あったっけか。 区切りの好いとこまで、もう少し。そうこうするちに、外が明るくなった。寝そびれた。あとできっと反動が来る。 陽射しが好い…

花々

よろづ不徳のいたすところ、つまりは自業自得ということか。 ご近所を散歩すれば、見紛うこともなく、春である。 庭師さんのお手が入ったというほど、とくべつお庭手入れにご熱心とはお見受けできないけれども、たゞまじめに素人手入れをなさっている感じが…

根拠

埴谷雄高(1909-1997)川西政明『評伝埴谷雄高』(河出書房新社、1997)より無断で切取らせていたたきました。 追悼文の名匠はと問われて、即座に思い浮ぶ数名の文人から、この人が漏れることはない。 追悼文の名篇が残るには、まず依頼されねば始まらない…

上々吉

昔は、この一年の運勢を占う気分があったもんだが。 一昨日はたいそう陽射しが好く、しかも珍しく午前中から目覚めていたので、食糧買出しを遠回りして近所散歩したのだったが、途中郵便局へも寄った。 たまたま他に客がなかったからか、自動扉を入るなり女…

立停まる

ほうき立ち。数ある落葉樹のうちでも、ケヤキだけが見せる冬枯れの姿である。 所沢キャンパスに二十年間ほど出講した。駅の正面から、警察署だの法務局支所だの市民センターだといった公共施設や、公園や中学校が並ぶメインストリート。両側はケヤキ並木だっ…

凡なるもの

細谷博『漱石最後の〈笑い〉―『明暗』の凡常』(新典社、2022) 皿にこびり付いたソースをひとしずくも余さず舐め尽そうとするかのように、『明暗』一作を、これでもかとばかり精細に読込んで、解きほぐした一冊が出た。 細谷博さんは南山大学名誉教授。日本…

郷土愛

長崎八幡宮 日和の好い日昼に買物に出るのは久しぶりだ。少し遠回りして近所散歩。あそこの梅の木、あちらさまの垣根、例年の花々はおゝむね承知している。このさい公園は除外して、個人さまのお宅を中心として。 咲いてる咲いてる。電気ストーブと睨めっこ…

シンプル・イズ

中陰蔦(ちゅうかげづた)、我が家の家紋である。 日本にいくつの家紋があるものか、数えた人はないそうだ。というか、数えきれないのだろう。同じ系統でもバリエーション豊富だし、同一紋に見えてわずかに異なるという場合もある。 我が家の紋は蔦の葉をモ…

ゴチャゴチャ

山下洪文監修『実存文学』(未知谷、2022) 詩人にして、大学では詩史と詩作の指導者でもいらっしゃる山下洪文さんが、ご一統のお力を結集して編まれた文叢。山下さんご自身の論文や研究調査を柱に、若い筆者たちによる詩・小説・批評が並ぶ。着眼秀逸の二大…

下山道

五木寛之(1932- )『赤旗(日曜版)』より無断で切取らせていたゞきました。(野間あきら記者撮影) 国家というものは危急にさいして、いとも簡単に国民を棄てる。敗戦後に旧満洲や朝鮮半島から引揚げてきたかたがたの回想録で、異口同音に証言されている…

はずがない

拙宅ほゞ唯一の遊興機器、兼世間情報収集装置。 またも武内陶子さんの「ごごカフェ」だが、今日の投稿テーマは「私の好きな花」。こういう話題が交わされる季節になったと報される。 梅が桜が、レンゲがスズランが、花壇が鉢植えが水耕栽培がと、いっせいに…

文才

アンブローズ・ビアス(1842-? ) 『悪魔の辞典』はいきなり、こんなふうに始まる。 ――愛国者 部分の利害が全体のそれより大事と考えている人。政治家にコロリとだまされるお人好し。 ――愛国心 ジョンソン博士の有名な辞典では「無頼漢の最後の拠り所」と…