一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

2021-12-01から1ヶ月間の記事一覧

さぁ

さぁ やって来い新しき年 なんぞといって みたところ しょせんは今日の 明日に過ぎぬ恥多く たゞさらぼうて いじましく ちいさく淀む しみったれ盗れるものなら 盗ってみやがれさぁ やって来い去りゆきし年 なんぞといって みたところ つまりは今日の 昨日に…

意思表示

年に一日、旦那になる。頭(かしら)とご町内の関係。 「いつもの、お持ちしていゝっすか?」 野尻組の若い衆から、声を掛けられたのは昨日だ。毎年の年末行事である。 「わりい、明日にしてもらえる?」 これから出掛けようとしていたところだった。で今日…

穴だらけ

過剰に几帳面な均衡・公平・平等への執着は、精神疾患と紙一重だそうだ。 一人用の盆に飯茶碗と一汁三菜。好物から箸をつける人、好物を最後の愉しみに取っておく人。いろいろだろう。経験からおのずと形成された、自分流の順序で食事をしているはずだ。 と…

BGM

DONALD BYRD:A NEW PERSPECTIVE 武内陶子さんの「ごごカフェ」も聴くし、荻上チキさんと南部広美さんの「セッション」も聴く。夜間だと「NHKラジオ深夜便」を聴く。生活不規則につき、毎日欠かさずのリスナーというわけではない。 年代物のラジカセを、台所…

玉子論

さしあたってなんの差障りもないけれど、たゞちょいとした、我が心の問題。 玉子を毎日一個ずつ、摂取することにしている。調理らしいことをするのでなく、目玉焼きか玉子焼きだ。目玉焼きであれば、ウィンナか野菜を軽く炒めて添える。玉子焼きであれば、そ…

えっ

私の好物。お好み羊かん、煉り・小倉・塩・抹茶各二個、栗一個の、一袋計九個入りで266円(税込み)。愛知県豊橋市の杉田屋製菓さん製造。 えっ、羊かんなら、とらやさんだろうって? さぁて聴いたことねえなぁ。 ――最近になって、手記や資料が出てきまして…

異例

古来云う。明けぬ夜はない。また云う。冬来たりなば春遠からじ。ありがたや、ありがたや。 一度書いてしまったものを、あまり読み返したりはしない性格だが、ふと変な気を起して、過去幾日分かに眼を通してみたら、あらためてうんざりした。 老残の妄想と愚…

冬支度

♪雪を蹴りぃ 金がない~ ソリは行くぅ 金がない~ ジングルベェル ジングルベェル 金がない~ 今日は楽しい 金がない オゥッ! 家庭持ちたちが「お先に」していってしまったあとに残された、独身で彼女もなく行き場もない、零細出版社の社員たちが、酔いつぶ…

聖夜

原作と児童向け絵本とが、かくも隔たった作品となると、これと『ガリヴァー旅行記』とが双璧をなす。 ○兄さん、うちにはどうして、クリスマスのお爺さん、来ないの? ●かあさんが、街へ行ってお爺さんに頼む、暇がなかったんだってサ。それより窓をご覧よ。…

回覧板

お隣ご近所だの、向う三軒両隣だのといった語には、年寄り臭い響があると思われがちだが、あながちそうでもない。むしろ年寄りは、ご近所から孤立している。 ♪とんとん とんからりんと 隣組 格子を開ければ 顔馴染 廻してちょうだい 回覧板 知らせられたり …

まとも

古来の手造りとは、似ても似つかない。けれど手作り感の温もりを演出してある。なるほど、これが現代の「まとも」というものか。 従兄が日本海の海産物加工品を贈ってくれる。ありがたい。大好物だ。 私より年長の従兄で、旧家の跡を取った。今は住宅地とい…

耳が変

大竹英雄(1942‐ ) 十二月十五日、大竹英雄名誉碁聖の引退会見。一時間以上にもわたる囲碁記者との質疑応答。含蓄ふんだん終始感服。お見事としか申しあげようのない一時間だった。 開口一番、「盤上に思い浮ぶ図が、貧相になってきた。自分に幕引きすべき…

有之候

『江古田文学』第108号が、近日書店に出る。編集部が日本大学藝術学部文芸学科内にある文芸雑誌だ。今号は、同誌が主催して第二十回を数える江古田文学賞の、今年度受賞作発表号だ。 一般公募の文学賞だから、藝術学部はおろか日本大学とすら無縁の応募者か…

変奏

サマセット・モーム(1874‐1965) 蟻とキリギリス、といえば、有名なイソップ寓話。働き者の蓄財家と享楽的な浪費家との対照により、勤勉の大切さを諭した噺だ。ところが現代では、どうもこの教訓が捻れてきているらしい。 モームに、題名もズバリ『蟻とキリ…

カフス

高級な料理や美味い食材を知ってしまっているので、安っぽい味はどうも舌が受付けない、などとおっしゃるかたを、少し観察させていたゞくと、たいていは嘘か、さもなければ見栄である。 ラジオ深夜番組「パック・イン・ミュージック」で、桝井論平さんがおっ…

気立て

ご近所の奥さまから、りんごをいたゞいた。福島県のお知合いから箱で届いたので、お裾分けとおっしゃって。果物屋に上等品として並んでいる、大ぶりで持ち重りのするりんご、なんと三個もだ。 「線量チェックは済んでいるそうです」とつけ加えられた。福島県…

冬枯

冬枯や 去にし名も香も 黙しをり 国木田独歩が描いた武蔵野は、今の渋谷駅周辺。新宿も渋谷も、府心を出外れた郊外だったわけだ。 武蔵野を代表する、というか象徴する樹木といえば、ケヤキである。昔はもっと、いたるところに立っていたのが、東京都市開発…

種まいた人

醍醐敏郎十段(1926‐2021) 嘉納治五郎が講道館を創設してから今日までに、事実上の最高位たる十段にまで昇り詰めた日本人は十五人しかない。そのお一人が、今年他界された。 時たま父を訪ねてみえる巨きな人が、全日本選手権を連破した柔道家だと聴かされて…

じつは嘘

いただく順に迷う! 魚とりどり詰合せを贈っていたゞいた。バターソテーをクリームソースで、なんてことを、私はけっしてしないから、すべて焼魚としていただくことになる。 一週間以上ぶんも、魚の目処がついているというのは、なんと満たされた気分だろう…

云いぐさ

選挙に勝った政党は、我が主張が正しかったとおっしゃる。負けた政党は、有権者への説明に残念な手抜かりがあったとおっしゃる。勝ったら内容、まけたら技術。勝ったのは俺の手柄、負けたのは不運のせいだ。人間とは、そうしたものだ。 日記を付ける習慣をも…

カタログ

豪華カタログ。全ページに眼を通したことはない。 「わずかばかりで、お手数なんですが……」 「いゝえ、古くからのご愛顧ですよねえ」 「はい、ご開店のときから私の両親が。こちらが建つ前は、東横百貨店がありましてね。向うは師範学校のグラウンドの金網。…

しおり

チョコレート効果(左から)カカオ72%、カカオ86% なんでぇ、またチョコレートかいッ! いゝえ、先だってのは森永製菓さんでして。これは明治製菓さんになります、はい。 森永さんでは「ワインに合うチョコレート」とのコンセプトでお洒落路線だったが、明…

海王星

独居老人冬ごもり籠城戦をひかえ、兵糧続々届く。 ほんの数歩違えば巡り逢えたのに、というようなすれ違いメロドラマが、昔ずいぶん流行った。このところ、人と人との出逢いもさることながら、生きてる自分と死んでいった者たちの違いはどこにあったかと、考…

木琴ちゃん

京都橘高校吹奏楽部(ローズパレード2018) 信ずる者は救われる、か? それとも、知らぬが仏? う~ん、そうだっ、馬鹿は死なゝきゃ治らねえ、これだな。 今夜はもう言葉が出てこないから、一杯飲んで寝ちまおう。冷蔵庫を漁って、キッチンドリンキング。そ…

無沙汰がち

老人や病人の脇に控えるべきは誰か。親しければ好いってもんじゃなかろう。 可久君から、食膳の花ともいうべき逸品のご恵贈に与った。暮れ正月、老人独りの籠城暮しには、またとないお味方だ。お礼の言葉もない。 学生時分からの仲間だが、この数年は繁く顔…

チョコレート・コンプレックス

カレ・ド・ショコラ(左から)クラシックビター、カカオ70、カカオ88。 私自身は、米軍兵に「ギブミ―・チョコレート」とねだったことはない。そういう情景を実際に眼にしたこともない。 横浜桜木町に育ったから、ジープに乗った米軍兵など、日常的に眼にした…

卒業

私は押しかけ弟子だった。師にとっては、招かれざる客だった。私を、弟子などとは思っておられなかった。 東 野炎 立所見而 反見為者 月西渡(巻一、48)柿本人麻呂 ひむがしの野にかぎろひの立つ見えてかへり見すれは月かたぶきぬ (賀茂真淵『萬葉考』によ…

暮れまで

米どころから、豊作の消息満載の贈り物が届く季節となった。独居老人が暮れ正月を籠城するための、頼もしい兵糧だ。 なにかお返しをしたいものだが、東京の名物を思いつかない。雷おこしでもあるまい。そう嘆いたら、ある友人が、海苔だろうと教えてくれた。…

師の申さく

窪田章一郎(1908‐2001)『窪田章一郎全歌集』(短歌新聞社)口絵より切取らせていたゞきました。 棋士たちは、師匠から日常頻繁に盤を挟んで手ほどきを受けつゝ、成長してゆくわけではないという。入門時に顔合せをかねて、棋力・棋風を診ていただくために…

気の毒

プラトン(前427ころ-前347) 美しい青年は得であるか? 師から、より多くのことを、授けていたゞけるものなのか。だとしたら俺は……。 プラトンに『パイドロス』という、お奨めの問答篇がある。さほど長くもなく、読みやすい。有名な『パイドン』とは別物で…