一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

2022-12-01から1ヶ月間の記事一覧

意志の問題

保昌正夫(1925 - 2002) 保昌正夫先生の謦咳には一度だけ接したことがある。たった一度だが、記憶に残っている。 立原正秋さんを初代編集長として復刊された第七次『早稲田文学』が、第二代編集長の有馬頼義さんにバトンタッチされてほどなくの頃だった。有…

今風お洒落

お洒落ないただきもの。いや、私が鈍感なだけで、現代の潮流なのだろうか。 押詰ってくると、叔父から歳暮をいただく。今年は帝国ホテル・ブランドのカレー詰合せ、三種類各三食だ。 初めて眼にするパッケージだ。既知の商品とどう異なるのだろうと気になっ…

フライング

納豆のかわりに黒豆。目玉焼のかわりに伊達巻。イワシ缶かツナマヨのかわりに焼鯖かまぼこ。食卓は先行正月だ。 正月といっても、大晦日の翌日。大晦日といっても三十日の翌日に過ぎない。屠蘇や雑煮で祝う必要もなき一人家族なれば、手配した食材が届けばど…

道端の冬

フラワー公園で、冬の色につい足が停まった。陽射しに恵まれた午前だ。空気は冷たいが、風がないので心地好い。イケネッ、今日は用事が多いんだった。 まず散髪。マスターと今年最後のご挨拶。疫病規制以来止めていた顔当りもお願いする。二年以上ぶりだろう…

磯賞味

満喫した。 一年ぶりのこととて、忘れてしまった。牡蠣の殻をいかにして開けるんだったか。たしか腹を上にして左手に持って、十文字中央のやや右上寄りに貝柱があるんだった。貝の右上から、右手に持った貝開けナイフを挿し込むんだった。そんな便利なナイフ…

レパートリー

さて、試食である。 仕込んだ翌日はまだ、これでほんとうに馴染むのだろうか、浸み込むのだろうかという様相だった。丸二日経ってみたら、驚くほど馴染んで、視た眼も変化してきた。トロントロンという感じだ。わが新デザートとなりうるかいなか。ガラス器に…

置物

わがホームコートである酒場「祭や」には応援団長殿がいらっしゃって、私の半生にあっては年齢差最大の友人が就任しておられる。ジジイに対してもご機嫌よろしく乾杯に歩み寄ってきてくれる友人は、今のところ世界に一人、この応援団長しかない。 疫病による…

常なき

思いつめ出したら、きりがない。 今さら書き屋としての重く長い仕事が回ってくることはない。体力的に無理だ。衰えても知名度や敬老精神により仕事が振られるかたもいらっしゃるが、生涯裏街道を歩いた私には、ありえない。 文学雑誌の新人賞選考会。読み屋…

〈口上〉連続六百日

東西とーうざーい! 歳末を迎え、どちらもさまにおかれましても、なにかとご多用にて、とかく心急く頃おいではございますが、私ごとにて恐縮なれど、ひと言、お眼を汚しますことをお許し願いあげます。 昨年の五月三日、想い起しますればゴールデンウィーク…

わきまえて

ウワーイ、今度は海の幸だぁ。 「つい今しがた、届いたばかりですの」 一昨日、蜜柑と柿と餅と沢庵漬をくださったご近所の奥さまが、またお越しくださって、今度は三陸から海の幸だ。私の暮しでは、生の殻付きを手にする機会など、めったにない。以前に同じ…

餡まん作法

肌を刺す冷えこみを覚えたときにのみ、買う気になる食品。私にとってそれは、肉まん餡まんである。 この冬初めて買った。前回食べたのはいつのことだろうか。記憶にない。お気に入りのようにして、食べ切ると次を購入していた時期すらあったものだが。 サミ…

あんぽ柿

またも頂戴もの。今回は、ご近所の奥さまから。 蜜柑に餅に、無添加製法の沢庵漬にあんぽ柿。年越しから正月へかけての即戦力がズラリと。ありがたい。 蜜柑は皮まで使ってしまうし、ヘタなどの余りは刈草とともに地中に埋めてしまうから、ほとんど無駄はな…

幕を降ろす

山を越えるということがある。幕を降ろすということがある。 缶、瓶、ペットボトル、発泡スチロール。資源ゴミ出しの朝。年内最終の回収日は来週だ。しかし突発的になにが起きるか判らない。なにせ不規則生活、回収時間に眼覚めていない危険性もある。今朝出…

とある週末

玄侑宗久『現代語訳 般若心経』(ちくま新書、2006) 久びさに鉄道に乗る。本日の携帯本は、玄侑宗久さんと決めて、バッグに入れた。 まずもって軍資金。銀行 ATM へ。年末年始の諸雑費用意にはまだ早いか。本日の経費のみ引出す。 私鉄はともかく山手線はじ…

鼻の奥文化

到来物お大臣。至福蕎麦。いただきます。 男女問わず、優秀で魅力的な外国人ユーチューバーさんがたが、数多く活躍していらっしゃる。国籍も多彩だ。恐らくは母国語と英語に続く第三言語であろう日本語が、これほどまでに堪能で、日本語を母語とする視聴者に…

グローバル・スタンダード

宮田雅之『銀座の女』(部分) グローバル・スタンダートということを持ち廻る人を、信用しないことにしている。 日本人は概して、世界いずれの国の人びとよりも、自己主張が苦手だという。本当だろうか。人前で議論・論争することが下手くそだという。本当…

なにか?

兵站より兵糧届く。 昨日に引続き実弾! 米だ、蕎麦だ、餅だ、きなこまで付いてる。 明朗純朴な人柄で、親戚中だれからも気に入られた従弟については、以前に書いた。惜しみても余りあることに、短命だった。夫人と長男長女の三人ご家族が残された。幸いご長…

ほどよい

ほどよいご馳走。 実弾! 独居自炊者には、けっして無駄にならぬ贈り物。 従妹ご夫妻は東京郊外で、親の代からの歯科医院を開業している。私から視れば、母の弟ご夫妻の、お嬢さんと夫君だ。叔父は自作農の次男坊だったし、私の父も自作農の三男坊だったから…

アンカー

最後に持場を離れた生命の噺。 大北君からいたゞいた里芋のおよそ半分を、見よう見真似のヤマ勘で煮っころがしにしたら、思いのほか食べられるものに仕上って、このぶんなら残り半分も煮っころがしにしようかなどと、暢気なことを考えたのがつい数日前のこと…

所沢

新装成った所沢駅。ふぅん、こうなったのか。改札口が増えたんだぁ。こゝが広くなったんだぁ。おのぼりさんさながらだ。 「ござ」さんや「よみぃ」さんほか、ストリートピアノ演奏系の著名なユーチューバーがたによる、所沢駅構内の明るい広場での動画をいく…

冬来たる

来春三月までの長期予報によると、例年にも増して寒い冬になるという。 郷里の従兄から、私にとっては珍しい食品をいたゞいた。こゝ数年、年末には同じ品物をいたゞいてきた。初めての年には、世にはこういうものがあるのか、美味いもんだなあと唸った。上越…

身を処す

徳川夢声(1894 - 1971)『お茶漬け哲學』(文藝春秋新社、1954)口絵より無断切取り。撮影:土門 拳 庶民は時局に、黙って身を処した。小林秀雄は戦時下の空気を回想して、たったひと言で云った。よくよく味わってみるべき言葉だ。 12月8日月曜、温暖。徳…

もう半分

えゝ、取るにも足らぬことですとも。私には重要ですけど。 大北君からしばしば、ご丹精の野菜をいたゞいて重宝していることは、これまでいく度も書いた。いずれ劣らぬ大ぶりの蕪と生姜と里芋とをいたゞいて、大喜びした次第を書いて二週間以上にもなる。蕪と…

予兆

伊藤 整(1905 - 69)『太平洋戦争日記(一)』口絵より無断切取り。撮影:平松太郎。 重苦しい空気が充満する時代。伊藤整一家は杉並区和田本町に住んでいた。 十二月一日午前。まず講師を務める日大芸術科へ出講。レポート課題を発表した直後につき、出席…

嗅ぎたい

志賀直哉(1883 - 1971) 人間に踏込もうとすれば、どうしたって匂いの噺になる。 井伏鱒二と永井龍男の対談は、昭和四十七年(1972)一月号の雑誌に掲載された。前年末に発売されたはずだ。対談はさらに前だ。その年の十月には志賀直哉が他界したばかり。そ…

人さばき

永井龍男(1904 - 90)『井伏鱒二対談集』(新潮文庫、1996)より無断切取り。撮影:田沼武能。 どれほどのユーモア精神があれば、かような対談ができるようになるのだろうか。溜息が出る。日暮れて途遠し。 永井龍男と井伏鱒二による回想録的対談となれば、…

プルトップ

缶切りを使ったことのない若者たちの時代なのだという。 今日の気分は味噌汁ではないな、という日がある。かといって麦茶を飲みながら食事というのも、少々味気ないな、という気分の日もある。 若き友人のひとり水奥さんから岩手県の水産加工食品をいたゞい…

平穏か老化か

昨日に続いて、今日もいたゞき物。郷里の従兄から、名産保存食の詰合せが届いた。 ヤマト運輸の配達担当員氏とは、心安く口を利き合う間柄で、なにかと気を遣っていたゞいている。あのジジイ、まだ寝ていやがるだろうからと、午前配達の品が舞込んでも弾いて…

佳味延命

暮れ正月の糧秣届く。籠城自粛戦術に兵站からの兵糧支援である。 文筆・書籍編集・デザイン・印刷物制作ほか、よろず引受け業の若き友人ながしろさんから、食糧支援をいたゞいた。ながしろさんは私にとっては、パソコンの顧問である。 私は五十五歳から自宅…

後始末

往来の落葉掃きをしていると、塵取りのなかにいろいろなものが掃き寄せられてくる。 「地球環境」なる語の用いられかたに、一抹の疑問を感じている。 海底に樹脂類が堆積して、それが魚介類や海中植物に悪影響を与え、ひいては人間の食糧に影響して健康被害…