岡田茉莉子(伊藤野枝)、細川俊之(大杉栄)、高橋悦史(辻潤)、楠侑子(正岡逸子)。
つい最近も、伊藤野枝を主人公とする映画が公開されたという。自分の生命力に忠実に、力強く生きて短く散った女性として、女性観客から称賛され、女性権利(権威)拡張運動の論客たちから推奨されているらしい。
『エロス+(プラス)虐殺』がアートシアター系で封切られた一九七〇年三月には、さように暢気な(と申して失礼なら一般的な)主題への関心から劇場に赴いた歳若い観客は少なかったろう。
日米安保自動延長に異議あり。ヴェトナム戦争への加担(国内での傷病兵治療ほか)に異議あり。中央教育審議会答申案(産学共同路線=大学自律を放棄して財界の要望を容れる)の立法化に異議あり。沖縄を返せ。当時の中国との国交回復に異議あり。
じっとしてはおられぬ想いが、胸に渦巻いていた。が、へたに動きだせば、警察機動隊に怪我させられた。まだ三島由紀夫も生きていた。
題材には賛同した。だがそれを、エロスと云うか? 芸術家吉田喜重への絶賛と反発とがもろともに、声高に交錯した。
映画は、心とろけよとばかりに美しかった。桜は見事このうえもなく満開に咲き匂い、これでもかというほど散った。その下を、岡田茉莉子と細川俊之がゆっくりと歩いた。
桜が強く匂い、見事に散った映画、わがベストスリー。
『エロス+虐殺』
『砂の器』(野村芳太郎監督、1974)
『櫻の園』(中原俊監督、1990)
〈次点〉『喜びも悲しみも幾歳月』(木下恵介監督、1957)
昨日は風のある一日だった。時おり、突風すら吹いた。花はまだ満開とはいえないが、拙宅では先頭をきって第一陣が散り始めた。