一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

長身美形



 背の高い女が好きだった。

  アカツキがパリ五輪行き切符を手にした。女子バスケットボールチームである。ハンガリーにまさかの苦杯を喫したときには肝を冷したが、第三戦ではランキング上位のカナダに競り勝って堂々の本大会出場を決めた。東京五輪では開催国枠での無条件出場だったから、この予選突破にはひときわ価値がある。
 試合内容については、今後動画がいろいろ挙ってくるだろうから、いずれじっくり検討するとして、まずはめでたい。

 ところでお隣のバレーボールだが、益子直美に注目したのは1984年の春高バレーだった。所属チーム共栄学園は、断トツ優勝候補の八王子実践と準決勝で顔を合せた。八王子実践は当時106連勝中の常勝軍団だ。つまりなん学年も上の先輩チームの時代から、公式戦で負けたことがないのだ。今大会の優勝もどうせ八王子実践だろうと、だれもが予想していた。
 共栄学園には中学生時分から注目を浴びる大砲益子直美がいる。しかし八王子実践には大砲も中砲も機関銃もずらりと揃っていて、将来日本を背負うと思われる司令塔まで完備されてある。中心選手は束になって「日立」へと進み、やがて日本代表選手となってゆくのだ。この年も、益子より一学年下ではあったが、将来の大器と目された大林素子が、すでに先輩セッターが上げるトスを打ちまくっていた。

 試合の蓋を開けてみたら、共栄学園の予想以上の善戦だった。八王子実践は大砲のほかに、センタープレイヤーからのクイックもあれば、ブロックも高い。それに対抗するには、共栄学園としては、エース益子にボールを集めるしかない。セットが進むにしたがって、両チームの意地のぶつかり合いというか、作戦の本線にあからさまにこだわるしかない様相を帯びた。つべこべ小細工などやめて、つまりは益子と大林の打ち合いである。
 益子は打ちまくった。一人のエースだけがあんなに打ちまくった試合を、後にも先にも私は他に観たことがない。まさに神憑っていた。テレビ画面からもそう見えたのだから、会場で観戦した観客の眼には、ゾーンに入って眼の色が変っていた少女の姿は怖ろしいほどのものだったろう。
 八王子実践による空前絶後の連勝記録を106で止めたのは、共栄学園である。こういう少女の将来は果してどういうことになってゆくのだろうかと、私は密かに注目したのだった。

 日本リーグに進むさいにも益子は、ナショナルチーム代表選手の巣窟たる「日立」には属さず、「イトーヨーカドー」に籍を置いた。益子直美と大林素子との位置関係は月と陽のようであり、野村と長嶋のようでもあった。
 現役引退後に益子直美写真集が三冊刊行されたが、私は一冊しか所有していない。長く愛蔵してきた。が、判断力が残っているうちに、きちんと始末しておこう。第二写真集『Rhapsody』を古書肆に出す。


 夏目 玲というモデル兼女優の名を記憶する人はごく稀だろう。いわゆるモデル体型とでも云おうか、171センチの長身細身にしてすばらしく美形の女優だった。ために美形が売りの仕事が中心となり、人間表現としての演技を磨く機会となる仕事になかなか出逢えず、大作名作とは縁なきままに、いつの間にか活動を終熄させていった。
 その後彼女がいかなる人生を歩んだか、現在はどこでどんなふうに過しているかについての情報は、私なんぞの耳にはまったく届かない。公開されてないのだろう。追跡さえされてないのかもしれない。ただ『夏目玲写真集XX』は、私にとっては代替のきかぬ極上写真集であり続けてきた。
 こちらはまだ手放すわけにはゆかない。気紛れに観たい気を起したところで、二度と再会できぬ気がするからである。