陽射しの方向は低い。児童公園の四分の三は、建物と立木の陰となる。
保母さんたちは、なんとかして児童を陽に当らせたい。寒い。風もある。児童が風邪でもひいたら大変だ。午前中の限られた時間しか屋外遊びはさせられない。わずかに陽が射す公園の北よりで、手短に、要領よく遊ばせなければならない。
身を寄せ合って、押しくらまんじゅう。ほんのいっとき、温かそうだ。
階上の小窓から眺める老人は思う。保母さんが靴の爪先で引いた、グルッと丸い線の外側へ、友達を押出して笑う子。押出されて泣く子。自分はさて、どっちだったんだろうか。
ワガママで意地っぱりで、負けず嫌いの子だった。負けまいと必死になる子ではあった。勝つと、他愛なくいい気になる子だった。
なん歳ころからだろうか。負けるが勝ちみたいな、生意気な自己慰撫の手管を身に着けたのは。強いよりは、独自であることのほうが上位だなんぞと、ひねこびた考えに凝り固まるようになったのは。自分の半生を豊かにしたとは、とうてい思えない。
遠回りした。無駄ばかりではなかったけれども。損をした。自分らしくはあったけれども。近道を往くものが馬鹿に見えた。馬鹿だったのは自分だった。
乗越えたか、潜ったか、自分はどう過してきたのだったか。この生きかたしかありえなかったのか。さようなことはあるまい。他の道もあったはずだ。が、いずれの道を往っても、結果はさほど異ならなかった気もする。つまりは自分の器が、これっぱかりのもんだったということだろう。
保母さんの一人が、こちらに気付いた。そっと窓を閉める。