一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

秋野菜



 いつまでも暑さ負けしてばかりいないで、秋の陣へと奮い立たねばと、昨日ようやく書いたところだったのに、学友大北君からご丹精の野菜をいただいてしまった。これぞ秋の第一陣で、すっかり先手を取られた恰好だ。
 この陽気のなかを学友は、畑へ出て作物の成熟に気を配り、頃合いを看計らって収穫作業を敢行したと見える。敬服の極みだ。というか驚嘆のほかはない。
 感謝しつつ心躍る気分で荷を解くと、茄子とモロヘイヤとオクラだった。

 オクラは日ごろ自分では買わぬ野菜だ。穫れたて直送ものを手にする機会などめったにないから、なるべく手をかけたくない。となれば、やはりおひたしか。たしか塩揉みして表面の産毛を取るんだったと記憶する。あとはふつうに茹でればよろしいのかと思う。
 モロヘイヤは私にとって、夏のほうれん草である。すべてを茹でてしまってから、一回使用の小分けラップにして冷凍する。おひたしにも汁の実にもする。
 本命は茄子だ。八百屋で購う小袋入りの倍量以上ある。豪勢なもんだ。まず一個は、縦割りにして包丁目をいれて素揚げし、生姜醤油で味見しよう。天ぷらで二個を使う。小一個は薄切りにして浅漬けにしてみるか。残りは仕立て慣れたる揚げびたしで、大量消費だ。目処が立った。嫁がないからすべて自分でいただく。

 生産農家の畑の一部を共同で借受け、小分け区割りされた土地で、いく人もの趣味家が家庭菜園に精を出しているらしい。借受け仲間と共同で牛糞を仕入れたりして、本格的に手を掛けているようだ。
 学生時分はクラス一番の都会派青年で、服飾業界(アパレル系と今は云うのか)へ就職したさいにも、あぁアイツならなと、学友のだれもが納得したものだった。その後の人生の悪戦苦闘については、私はなにも知らない。
 ただ私と同じく一度は持病を得た身と聴いた憶えがある。そして今は、土壌の加減や作物の栄養状態に眼を光らせる暮しをしている。