一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

2024-08-01から1ヶ月間の記事一覧

わが散歩

年寄りだったらだれもが云う。昨日のことのようだ。アッという間だった。呆気ないもんだ。 トレーニングしちゃあいけませんよ。鍛えようなんて考えるのはもってのほかです。どうやって維持するか、温存するか、減退を遅らせるか。考えかたを切替えてください…

保水力

土壌の保水限界というものが、あるという。 九州・奄美地方のかたにとっては、近年いまわしい年中行事となった感すらある台風襲来である。お気の毒で、お見舞いの言葉もない。 気象予報では、観測史上屈指の巨大台風として、今では記憶する国民もさほど多く…

自分にはこれで

「栗くず餡と芋あんころ」という二種詰合せ商品だ。 しっとりした豆餡に甘露煮した栗のかけらが混じる。砂糖の山に砕いた氷砂糖が混じっているようなものだ。それを半透明の葛で包んで、清涼感を見せている。また念入りに裏ごししたような薩摩芋ペーストで、…

役割あるなし

技術的にも、体力的にも、私にはとうていできぬ仕事だ。 砂場を背にしたベンチの周辺を、丁寧に掃いている作業員さんがある。公衆トイレの周辺は、すでに掃き了えてある。 グラウンドキーパーが内野を整備する、通称トンボと称ばれる専用清掃具を思い出させ…

天丼見習い

ふと思い立って、本日は豪華買い食い。天丼である。 味噌汁の実には、茹でて小分け冷凍しておいたモロヘイヤの小玉をひとつ解凍した。香の物には、浅漬け成った茄子。いずれも大北君からの頂戴物だ。 なにをふと思い立ったかと申せば、はて天丼のタレの味と…

飲んだ夏

外出時は申すに及ばす、自宅にあっても水分摂取は怠るべからず。少量づつできるだけ小まめにと、若い友人たちからもラジオからも、繰返し忠告された。すなおに心掛けた。 三種から四種の飲料を、冷蔵庫から欠かしたことがない。食糧と同様に飲料だって、一種…

秋野菜

いつまでも暑さ負けしてばかりいないで、秋の陣へと奮い立たねばと、昨日ようやく書いたところだったのに、学友大北君からご丹精の野菜をいただいてしまった。これぞ秋の第一陣で、すっかり先手を取られた恰好だ。 この陽気のなかを学友は、畑へ出て作物の成…

肩ならし

工事機材を積んだ車輛の到着を待つ、管理部門の社員さんだろうか。現場の筋向うにある信用金庫の開店時刻を待つかただろうか。それともたんに、通りかかった小公園に人影がなく静かだったので、小休止する気になられたのだろうか。身分証だか入構証だかのカ…

ほっつき歩いた頃

今はフィルムセンターとなっている、京橋の日本近代美術館で、新進気鋭の写真家たちを特集した「現代写真の10人」展があった。一九六六年の七月から八月へかけてだ。高校生にとっては、知らぬ名前ばかりが並んでいた。出展者最年少の篠山紀信という人が二十…

残暑見舞い

宵の口ころ、神社脇の道を通ると、興味深い。さっきまでは蝉が鳴いていたのに、今はコオロギが鳴き始めた、という潮目の変りがあると見える。双方混在の時間帯があるものか、一瞬途絶えるように双方鳴かぬ時間帯があるものか、確かめたことはない。ほんの数…

同じ日などはない

役目を了えて無惨に枯れさらばえた花茎を、剪定鋏で根元近くからバッサリ伐り離したのは、わずか三日前のことだった。そこへ短時間豪雨を含むこの数日間の猛残暑だ。これぞ絶好機と踏んだものか、君子蘭は信じがたい速度で、葉を伸ばしてきた。数日前までこ…

秋なのに

ミニチュアの置き飾りは、はや月見の宴だ。 ごく若い友人から、小説を書いてみたから一度読んでみて欲しいとの要請。時代遅れの老骨による参考意見でもお役に立つようであれば、歓んで拝見する所存だ。また久かたぶりに、買って一読してみたい書物も現れた。…

使いみち

後期高齢者医療被保険者証というものを、持たされている。まだ提示してみたことはない。 つい先だってまでは国民健康保険の被保険者証だった。国民から後期高齢者へと変ったことについては、異存ない。お前なんぞもはや国民の勘定に入らんぞと念を押されてい…

むき出しの第一次

『小澤征爾、兄弟と語る』(岩波書店、2022) 板垣征四郎と石原莞爾とから、一字づつ取った命名とのことだ。 小澤征爾の父開作は苦学して歯科医となったものの、五族共和の理想に燃えて満洲と北京とを往来する政治運動家だった。対立する東條英機派に敗れて…

とりあえず

なにかにつけて押詰ってきた。とりあえずは、という想いで、日々を過しているが。 つねならぬ進路をとった超大型台風が接近するとの予報に、なんの手立ても講じていないボロ家の住人としては不安の面持ちだったが、さいわいなことに台風は直前で急カーブして…

咲き了る

役目は果せたのだろうか? 大試合での見事な活躍を了えた女子卓球選手が、「今行ってみたい所は?」とのなんとも能天気な質問に対して「アンパンマンのアミューズメント施設と知覧特攻平和館」と応えたことに、賛否両論があるという。日本人として立派な若者…

うな丼

ウワッ、うな丼である。なん年ぶりだろうか? かねがねうなぎは、私にとって特別な食いものだった。値段の問題ではない。今ではスーパーに真空パック入りの、輸入養殖ものお手軽蒲焼もある。板前さん手づからの江戸前寿司や天ぷらと比較して、うなぎだけが特…

一千と二百〈口上〉

時まさに盆。いずれの仏教説話によりますものか出典はぞんじませぬが、古来の民間伝承によりますれば、昨年十七回忌でした亡母と来年十七回忌を迎えます亡父とが拙宅へと立ち戻り、つかの間の歓談と食事とを愉しみおる佳き日でございます。 まさか胡瓜や茄子…

旧盆

東京の気温は今日も、三十六度にまで上昇するという。東北地方には台風が上陸しているというのに。 陽が高くなってからでは、活動意欲が鈍る。午前九時を期して、行動開始だ。東京流をご辞退して、郷里の習慣を頑固に貫いてきた拙宅にとっては、今日が盆の入…

新幹線なら

夕暮れ。ちょっぴりアートな気分? ようやく身繕いを了えて、さて出かけようとしたら、郵便受けの蓋になにか挟まっている。宅配便の不在連絡票だった。昨日の十四時ころに配達されたらしい。お気の毒なことをした。一人前の郵便物であれば素通しの小窓からは…

つい乗りすごし

電車やバスの座席に腰掛けたまま、たとえ膝の上の荷物に掌を置いているとはいえ、また鞄のベルトに腕を通してあるとはいえ、暢気に居眠りしているなんて、日本人はなんと無防備でお人好しなんだ。 外国人観光客から嘲笑され、反面で国民性の善良さや治安の良…

夜の景色

窓から東北東方向へ、池袋方面を望む。 蒸暑い日ではあったが、南国型のスコールには見舞われずに済んだ。夜更けてからは、北寄りのそよ風が窓から吹込んで、オヤ心地好いと思わず感じてしまう。感じてしまってから、イヤイヤ騙されてはならぬ、不愉快な時間…

二流

池袋パルコの入口を飾るモニュメントとして、ガラス窓の内にスポーツシューズ・メイカーの巨大ポスターが掲げられてある。A 判半切ていどの縮小版がもしあるなら、一枚欲しい。 中学一年の入部時こそ、近所の靴屋で買った運動靴を履いたが、すぐに先輩たちの…

停戦渇望

気持は解らぬでもないが、そろそろ停戦して、次へ行こうじゃないか。 左岸右岸の君子蘭ひと株づつが、まだ咲きやめようとしない。初めの一花はすでに萎れて、紐のように垂れさがっている。第二花も盛りを過ぎ、うなだれている。今咲いているのは第三花だ。し…

そびえない

今日気づいた。いつの頃からか、高い処に心惹かれなくなっている。 保護者に連れられて、心躍る想いで東京タワーの展望台へあがった小学生だった。友達と連れだって、あえてエレベーターを使わずに、安全柵で囲われた外階段をえんえんと登って展望台まであが…

猛暑の陣、火ぶたを切る

猛暑戦開幕といっても、甲子園のことではない。 家ネズミの仔を四匹駆除できたのは、六月末だった。壁の裏や家具の背後で、夜中にかすかな物音がする機会はめっきり減った。が、一家が全滅したわけではないことはあきらかだ。だいいち、捕獲されたのは仔ネズ…

花道

南千住の集文堂書店が、創業以来百二年にわたって提げてきた暖簾を、さきごろ降ろした。 全国展開する超大型書店が繁華街にビルを構え、大量情報の大量販売を競う時代がやって来て、すでに久しい。それら超大型店すらが、紙媒体の衰退により経営形態の変革を…

どんだけ待ったら

あとどれだけ、待ったらいいのだろうか。 二十世紀後半を生きた者で、文学か演劇に興味を抱いた経験がある者なら、サミュエル・ベケットの『ゴドーを待ちながら』に考え込まされた経験をもたぬ者は少なかろう。 噺をくわしくなぞることをここでは措いて、粗…

今さらなにを

おいおい、本気で咲き始めちまったぜ。どうしたもんだかなあ。 明日から、新しい健康保険証に切替る。しかたない。時が経ったんだ。 昨年十月一日に交付された、名刺サイズの「国民健康保険被保険者証」は本日が有効期限だ。ところが老人は医療機関において…

色あせた時間

西武池袋駅の地下改札口を抜けて、地下道へと向おうとしたら、西武百貨店の入口が閉されていた。オヤ珍しい。その昔、毎週木曜が定休日という時代があったものの、年中無休体制となって久しい。あまりの猛暑に客足も落ち、臨時の夏休みでも設けたのだろうか…