一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

2024-06-01から1ヶ月間の記事一覧

葬送ふたつ

回収日である。つねの私にくらべれば、かなり可愛らしいゴミ袋だ。 いかなる分別をしようとも、再生資源化しようのない、すなわち高圧高温焼却炉にて灰にするほかない、いわゆる家庭ゴミの回収日だ。週に二回、巡ってくる。 なんの見栄かこだわりか、このゴ…

指定野菜

ブロッコリーが新たに、指定野菜の仲間入りするという。再来年から実施されるそうだ。 不動の十四品目が指定されてきたのだったが、およそ五十年ぶりに十五番目の品目として、ブロッコリーが加わるそうだ。 ビタミンと鉄分とが豊富な緑黄色野菜の雄であるに…

本年も〈口上〉

あいだに挟まりまして、ひと言お報せを申しあげます。 すでに世間に役割のなくなりました老人によります妄想・妄言の数かずを、わがブログの方針といたしております。 わずかにかろうじて残る出番といたしまして、今さら人に訊けない初級文章講座として、毎…

酒の肴

昨日に引続いて、とあるガールフレンドから食品のプレゼントをいただいた噺。 「カズチー」というものを初めて知った。食品の呼称ではなく商標名かもしれない。香ばしい味に調整されたチーズのなかに数の子が混ぜ込まれた、大人の味とプチプチ食感とが愉しめ…

これも石清水か

久びさに会ったお若い友人から、お土産を頂戴した。ハトロン紙の書類封筒になにやら詰合せてあって、右肩にはリボンのシールが貼られてあった。相手に負担にならぬていどの心づかいを、いつもしてくれる女性である。 あえてその場では中味を拝見せず、帰宅し…

地中の秘

一見のおかたには窺えまい。秘は地中に在る。 門扉から玄関まで、いわば拙宅のメインストリートだ。陽当りも風通しも申しぶんない。ひと眼にもつく。草ぐさにとっての楽園だ。すなわち私にとってはイタチごっこの最前線で、今年三度目の手入れとなる。 なん…

一生懸命に

澤村貞子(1908 - 1996) 気丈夫な女将や底意地の悪い姑を演ると、演技じゃねえだろうというくらいにハマった。映画だろうがテレビドラマだろうが、この人が脇役に一枚加わると、作品の格が一段あがった。 「おや、たいそう情ない取的さんだねえ。おなかが空…

ただ在る

お若い友人から、なん年ぶりかの連絡を受けた。たまには会って話そうとのお誘いである。一も二もなく、大歓迎なのではあるが。 かつて文章を上手に書く学生だった。大学から学生に授与される賞という賞は、総なめにした。作家志望だった。有望だと、周囲は思…

お辞儀

加東大介(1911 - 1975) 『南の島に雪が降る』の原作は『文藝春秋』に掲載された、俳優の加東大介による従軍回想記だが、ベストセラーとなり文庫化され、今日までにいく度も重版されたロングセラーだ。検索してみると、テレビドラマ版やら舞台化版やら映画…

想い出ある作家

森敦の登場は昭和文学史上の一事件だった。二十二歳でデビューしながら、六十二歳で芥川賞を受賞。その間、どこでどう暮していた人か。謎めいた来歴とあい俟って、時ならぬ時の人に躍り出た恰好の晩年だった。じつは謎とされた年月にあっても、知る人ぞ知る…

ほぉら

週に一度の資源ゴミ回収日だ。缶・瓶・ペットボトルである。いく週間分か溜って、ゴミ出しする甲斐がある量になったので、早起きした。 日照まえの涼しい朝だ。二度寝してしまうのはもったいない。予定外だったが、建屋周辺を視て廻る。じつは階上の窓から視…

いよいよ手を着ける

人生の店仕舞の作業を怠けぬように、本を手放す記録を時おり書いてきたが、これまで芝居関連書籍に手を着けたことはなかった。他分野との相似や通底を断ち切れぬ場合があり、取捨の判断に迷う場面が頻繁に生じがちだからである。が、そう云ってばかりもいら…

昨日に懲りて

建屋の東がわ。隣家との塀ぎわである。 裏手に設置されたガスメーターへの通路にあたるため、検針員さんにご迷惑をおかけせぬよう、まっさきに草むしりの気が周る地帯なのだが、ほんの一画だけ後回しになっていた。ユキノシタの群生処だったからだ。 花の形…

後遺症

赤・青・白(由来は動脈血・静脈血・包帯)が上空に向けて動いている。斜め三色のサインポールが、遠眼から視ても明らかに回っているのだ。散歩予定は急遽とりやめだ。散髪日に切換える。 ご先代マスターの時代から、半世紀近くもお世話になってきた理髪店さ…

大今昔

ご依頼書類を届けるだけだから、郵送にても可と云われたが、散歩をかねて出かけることにした。久しぶりだ。およそ五十五年前からの学生時分と、およそ二十五年前からの教員時分との記憶が混濁するから、感傷散歩といっても整合が面倒な場面も生じる。 他所で…

空間のしこり

リンゴだミカンだ、カキたイチゴだと、お好みはそれぞれにあろうけれども、レモンに対してだけはちょいと格別な印象を抱く人が、文学好きには多い。梶井基次郎『檸檬』の影響である。 肺疾による微熱にのべつ苛立つ主人公が、京都の街をほっつき歩く。ここが…

新庁舎

中野区では、五月七日からすべての窓口サービスが新庁舎へ移転した。一か月が経った。眼を惹く建物だ。中野区議会機能と東京都庁機能の一部とが、共存する建物らしい。。 八時半から受付け開始というので、七時には家を出た。久しぶりの国際興業バスだ。トキ…

初素麺

この夏、最初の素麺である。 珍しいものや凝ったものは、原則として口にしないから、麺類といえば徳用うどんに徳用そば、それに即席袋麺の醤油ラーメンの三種を順繰りに食べている。もうなん年もパスタ類を茹でていない。最後がいつだったかの記憶もない。 …

平然として

いつか使うかもしれぬブロックや、いつか地中に還すかも知れぬ枯板など、ガラクタをなんとなく積上げてある一画がある。春に草むしりしたはずなのに、小さな草ぐさがいち早く芽を伸ばしてきている。カタバミの花盛りだ。 今日は佳き日かもしれない。 コイン…

月に一度の

弘法さんが甘党だったものか、大酒飲みだったものか、資料を眼にしたことはない。 一昨日が母の月命日だった。忘れてはいなかったが、つねの気紛れで、一日延ばしをきめこんでしまった。と、金剛院さまからのダイレクトメールが届いた。お施餓鬼と盂蘭盆会と…

かつてエーゲ海に

―― 空よ、海よ、船たちよ、そして船腹に青く染まるギリシア文字たちよ!(秋浜悟史『アンチゴネーごっこ』) 学生諸君が自主的に制作する印刷物向けに、アンケート回答を求められたことがあった。履修してから当てが外れてがっかりする行違いを防ぐべく、あ…

晴れの日

低気圧が遠ざかったとかで、入梅前の、気持の好い晴天である。 信号のある十字路の角のマンションの一階では、ローソンストア100の開店日だ。店の左右には、赤地に白抜き文字で「OPEN」の幟がはためき、店の前には、紅白のキャンドル・モニュメントが立っ…

老いの頑張り

とんだもらい事故により、花盛りだった老桜樹の地上部が、アッという間に姿を消して、ふた月になる。あと処理については、なんら進展していない。 つい今しがたまで枝葉と花とに水分・養分をせっせと送っていた根は、長年の習慣を止めようとはしない。節ぶし…

発明について

同人雑誌に発表された作品が、若き文学仲間のあいだで高く評価され、いざ檜舞台へと乗出そうとしたところで夭折した梶井基次郎が、多くの後進作家たちから尊重され、今なお読者が途切れぬのは、彼の発明の数かずがあまりに鮮烈だったからだ。 他人が思いつけ…

大名の料理番

学友大北君から、またもご丹精の成果をご恵贈いただいてしまった。 つい先日も、いただいたばかりだ。春菊は三回に分けて、大好物の天ぷらにした。小松菜は茹でて小分け冷凍し、おひたし三回、胡麻和え一回の四分割で平らげた。蕪は薄切りにして甘酢の浅漬け…

ご恩返し

「ほんとうに橋川が色川より上だと、思っているのかい?」 「問題にならんと、思うね」 「そいつあ『明治精神史』が読めてねえんじゃないかなあ」 高田馬場駅からほど近くの、立飲み酒場だった。給湯器のような酒の自販機があちこちにあって、備えつけのガラ…

食卓も衣更え

しばらくぶりに野菜の揚げびたしを作ってみようかと、思い立って実行したのは、まだ肌寒い時期だった。いつもの悪癖で、材料を替えてみたり、味付けをかすかに変えてみたりしながらも、いく度も作り続けた。しかし気候もすっかり変ってきたことだし、保存食…