思いがけぬ場所に、新たな草山を築く破目となった。
昨日の続きだ。花梨の根周りと、東隣の桜切株周辺との下草をむしる。
今日はとんでもなく暑い日となるらしい。となれば、いったん眠ってしまうと、起床してからでは作業に適すまい。寝そびれついでに、就寝前にひと仕事済ませてしまうほかない。午前五時から六時までを作業時間と決めた。
夜半のひと雨のために土は湿り気を帯び、軍手はまたたく間に泥だらけとなる。
一画の隅っこには、毎度草や枝葉を枯らすにまかせる草山スペースがあるが、昨日枝からしごき取った花梨の葉がすでに山となってある。その山の裾野を広げようにも、方向を揃えただけの花梨の枯枝が長ながと横たわって邪魔をしている。仕方ない。新たな草山を設けた。
草むしりの面積はさほど広くない。が、背丈の高い連中や、蔓が伸びて長く這う連中が多い。面積も体積もあるフキが混じる。新たに詰めた樹木枝も混じる。新設の草山はあんがい巨きなものとなった。
しかし陽当りも風通しも十分な場所だ。さほどの日数をかけるまでもなく、完全乾燥の縮んだ枯草低山となってくれよう。どこかに埋め戻せるものとなってくれよう。
今朝も草ぐさの葉陰から、缶ビールの空缶一個と、これはバッグチャームででもあろうか、金属と樹脂とが組合さったマスコットが一個出てきた。
この一画にはドクダミがいない。だれよりも先に芽吹いてくるシダ類もいない。彼らにとっては、陽当りが好過ぎるのだろうか。
その代りにヤブガラシがいる。蔓性のツユクサもいる。いずれもおそろしく俊足で、アッという間に版図を拡げる。ただしどちらも蔓の急速な伸長による版図拡大に過ぎぬから、茎をたぐって地下へと続く根元を視つけて、そこから引っこ抜いて巻きとると、面白いように巻きあげられてくる。そんな所にまで達していたのかと、あきれるほど前方からずるずると引寄せられてくる。つまり眼に余る繁茂ぶりではあるが、むしり取る作業は捗る。
敷地内の他所にはほとんど姿を現さぬネコジャラシが多い。やはりシダ類やドクダミとは、好む環境が異なるのだろうか。一直線に天を目指して丈が高いし、ひと眼で判る特徴的な穂を出してくるから、目立つ。細葉の量も多いが、根元近くを一束に握って真上へと引きあげると、土を抱いた髭根がそっくりゴボッと抜けてくる。引抜き甲斐のある草だ。
セイタカアワダチソウが三株もいたのには魂消た。まだ丈四十センチほどの幼株だったから、ネコジャラシに紛れて気づかなかったのだ。気づいたからには、此奴にだけは甘い顔を見せるわけにはゆかない。はびこりかたが容赦なく、丈の伸びかたが尋常ではないのだ。端的に申せば、えげつない奴である。その代り根は髭根で浅く、地中深くにまで潜り伸びることはない。地表近くの茎を両手でしっかり掴んで真上に引けば、たいていは根っこごとごっそり引っこ抜ける。
桜の切株から生え出ているひこばえも、すっかり行儀悪くなっていた。この二本だけは伸ばしてやろうと視込んできたひこばえについては、分岐枝を払って本線だけをすっきりさせた。新たに生え出てきたひこばえは、すべて伐り落した。
花梨の樹についても、手の届く高さの徒長枝を新たに数本、伐り落した。
午前六時だ。カタバミそのほか声の小さい小型下草類は大目に視て、粗雑作業のままとする。泥まみれの軍手を、時間をかけて洗った。
浴室へと急ぎ、冷水シャワーをたっぷり浴びる。日に一度の石鹸洗いをここで敢行。二度以上も石鹸を使うと、老人の皮膚は皮脂の分泌が追いつかなくなり、汗疹(あせも)や湿疹に見舞われて、厄介なことになる。
爽快だ。牛乳を二百ミリ、麦茶を百ミリほど飲む。さあ就寝だ。