野坂昭如さんが、学生向けのご講演で、こんなふうにおっしゃった。直木賞受賞からほどなくで、話題沸騰の流行作家であられた時分、つまり悪振りが売りだった頃のことだ。晩年であれば、おっしゃりかたは異なったのかもしれないが。
――ストリップには、A,B,Cとランクがあってね、Aは例えば日劇ミュージックホール。衣装も照明も音楽も一流。乳首もアソコも出さない。踊りを鑑賞してください、とくる。
Cは場末や温泉場の、厳密に云えば非合法ショー。もろ出しが原則。なんなら男と絡みの本番実演まである。
中間にBという、乳首は見せるけどアソコは隠すなんていう、なんとも中途半端な領域があるんだな。
踊子のプライド高さはABCの順。でも稼ぎは逆で、CBAの順となります。
――文壇もご同様で、プライド高い純文学、これがAだね。いっぽうCランクにおいては、身内の不幸だろうが、愛人との閨事’(ねやごと)だろうが、昨夜の夫婦喧嘩だろうが、使っちゃいけないネタなんぞない。あることないことこき混ぜて、手段は選ばない。要するに読ませりゃいゝ。僕はね、Cランクの作家だったわけだよ。
AよりもCのほうが稼げるっていう点でも、ストリップと同様です。
ところがね、あいだにBがある。娯楽だが文芸作品だっていうんだな。なんともこれが中途半端。でね、僕も直木賞を受賞して、Bランク入りさせられてしまったわけだ。慣れないねぇ。じつに居心地よろしくない。
会場はおゝいに沸いた。学生たちは、笑い転げんばかりだった。
巧い話しぶりだなぁ。舞台の袖にしゃがみ込んだ私は、視あげるようにして聴いていた。口ごもるような、どもるような口調。あれも演技だろうか、などと考えていた。
さかのぼること二十数分前、楽屋にお茶をお持ちした学生に、こんなふうにおっしゃったのが、耳に残っていたのだ。
――君たちは気の毒だ。同情に値する青春だね。だって、今日このあと夕飯食ったところで、幸福になんか、なれないんでしょう? 僕たちはね、たとえ一日一食だって、腹一杯飯が食えたときには、まるで天下獲ったかのように、幸せだったんだ。あの気分、忘れられないねぇ。
学生たちは、黙るしかなかった。