一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

二万年

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YouTubeチャンネル「もちまる日記」様の一場面を、無断で拝借しました。

 「あの人は数字を持っている」てな云いかたがされる。放送や出版や広告関連の業界人がたが、起用する出演者や執筆者たちに関して云う。あの人の名前が出さえすれば、あの人の作品でさえあれば、あの人が出演しさえすれば、この程度の反響が見込める。この程度の売行きが確実だ。このくらいの視聴率が約束される、という意味らしい。

 暇つぶしにユーチューブを散歩していると、子猫の動画にちょくちょくお眼にかかる。可愛らしいサムネに惹かれて覗かせてもらうと、脇に続編のご案内が出ている。また「あなたにお勧めの候補」が案内される。ついついそれも覗いてしまおうものなら、次から次へと、子猫動画ばかりを勧められる破目になる。
 べつだん迷惑ではないけれども、世の中にこれほど多くの、愛猫家ユーチューバーがいらっしゃるのかと、感心させられる。

 飼主家族の一員となって久しい爺さん猫・婆さん猫よりも、子猫のほうが圧倒的に人気があると見える。
 親にはぐれてミャーミャー鳴いていた、生後間もない幼猫を、視るに視かねて連れ帰って世話する動画が定番だ。水路で溺れそうだったとか、カラスに襲われたらしく怪我してうずくまっていたとか、事情はあれこれある。ノミや寄生虫にやられて瀕死状態だったとか、先天的疾患をもっていたとか、子猫たちの宿命も一様でない。
 臨月の母猫を保護して、お産させた場合もあり、子猫を何匹もお披露目にやって来て、飼主に世話を頼んでみずからはいずれかへ姿を消した母猫もある。

 動画化される場面は似たり寄ったりだ。まず温めてやる。シリンジか哺乳瓶でミルクを与える。獣医に検査・診断を仰ぐ。日々の体重を測定して、日誌を付け成長過程を動画に撮る。眼が見えるようになったら、玩具であやしてやる。トイレ教育する。歯が生えてきたら離乳食教育する。そのあたりで、ネットで里親を探す場合と、飼主の家族にする場合との二股に分かれる。生後何か月、体重が何倍になったと報告される。成猫となる直前に、避妊手術を受けさせる。

 眼も開かずに、ガリガリに痩せてたゞ震えていた、手のひらに乗る幼猫が、ほれ、こんな美猫になりましたと、ビフォーアフターが対照明示される。
 紋切り型ではあるものの、子猫といっても個体差さまざまで、色も顔立ちも性格も、少しずつ異なっているので、観るほうはどれどれと、また観入ってしまう。

 驚くべきは、登録者数と再生回数だ。万単位の登録者を擁するチャンネルもある。何十万回の再生回数を誇る動画も珍しくない。
 まさしく、子猫は数字を持っている。

 なかには、幼猫と飼主との出会いから撮り始めて、家族の一員どころか、家内の王と崇められるまでに成長した成猫の日々を、撮りも撮ったり七百回近く。このたび目出度く、ギネス世界記録に認定されたチャンネルもある。「ユーチューブをとおして世界でもっとも多くの人に観られた猫」という称号である。
 総アクセス数が、6億1950万回とか。今試みに、一昨日アップされた動画を覗いてみたところ、登録者数138万人、その日の動画再生数84万回、コメント7千弱とある。

 ときに、私ごとき暇人の、なんの役にも立たず可愛げもない妄言ブログにも、登録者様はいらっしゃって、連日のようにお励ましをくださるご定連も、ほんの数える程ながらいらっしゃる。ありがたいこととも、不思議なこととも思う。
 が、指折り計算してみると、私がこの調子で毎日書き続け、投稿していったと仮定して、この猫と肩を並べるには、あと二万年かかる。
 はて、それまで書き続けられるものだろうか。