一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

つかの間

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本隊到着。

 桜に気を奪われているうちに、下の連中は着々と作戦を遂行している。
 様子見の斥候兵一輪だけが、飛び抜けて早く開花して見せた(3/24日記)。案のじょう先兵の宿命というべきか、ぶりかえした寒気と雨。わずか二日間の開花で、種子を結ぶこともなくしぼんで、消えていった。

 桜が散れば天の時、到来。地の利も申し分なし。本体の到着である。好期を逸すれば、後からやってくるドクダミの大軍団に埋れてしまう。
 奴らは野太い根を地中縦横に張り巡らせ、兵站補給路は完璧だ。どこまでが肉親か別株かも見分けのつかぬ密集大軍としてやって来る。時おり「人の手」という大量殺戮兵器によって大軍は散りぢりにされることもあるが、根絶やし殲滅などはとうてい不可能である。

 両三度重ねての大量殺戮兵器使用となれば、相当の効果も期待できようが、この家の「人の手」はかなり怠惰で、大軍根絶やしに熱心とは申しがたい。しかも若葉のうちに採集・乾燥して健康茶とするような上趣味もないところから、例年手を打つのが遅く、処置なしの様相と化すほど繁茂してのちに、ようやく作戦行動となる。
 その頃にはドクダミ軍の大半は花期の盛りを過ぎて、地中の根を太らせ、来年への栄養貯蔵をほゞ完了していることが多い。かくて暴虐大軍は不滅である。

 タンポポオダマキを筆頭とする野草類は、大軍がはびこる前の、このつかの間に咲いて見せねばならない。
 今年こそは、大量「人の手」兵器の適正なる使用を要請したいものである。なお同じ要請は、クローバーをはじめとする、より小型の草本類からも提出されている。

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 眼を中空に戻して、桜は花弁舞い散りの峠を越え、半ば以上は葉桜となった。その姿は、あえて伏せる。
 この春の記録として、満開にしてかすかに葉を出し始めた時期の画像をこゝに残しおく。樹木も主も、明年あるか否かは、約しがたいからである。