一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

満開宣言

 

 

 一度書いた、お向うの粉川さんご門柱脇に場所借りしているクローバ。あの時はツボミだったが、たゞ今満開。

 そのお隣、つまり拙宅筋向うの音澤さん駐車スペース脇に場所借りするクローバも、同じく満開。咲きっぷりを観ても、やはり兄弟だ。どちらが風上か風下か判らぬが、同じ日に同じ風に乗ってやって来て、こゝに着地したとしか思えない。

 拙宅敷地内のクローバとは、種類が異なる。拙宅のものどもは、すでに花を了えている。粉川さん、音澤さんのクローバは、道路側すなわち北向きに咲く。拙宅のものどもは、一部物陰に隠れるとはいえ、南にひらけた環境に根をおろした。
 今でこそ双方とも陽当りに問題はないが、秋冬のあいだは、環境にだいぶ格差があったと想像される。それが関係しているのだろうか。あるいは、たんに種類の違いからくる性質の差だろうか。


 音澤さんのクローバの真正面、すなわち拙宅隣の空地の道路際には、異なる小花たちがいる。種類からして全然違う。こちらはキク科である。

 クローバ類もいるにはいる。葉の色からしてまったく別物だし、背丈も低い。
 双方を隔てるのは、わずか幅五メートルの一方通行路だが、彼らにとっては厳密なる環境の境界線なのであろうか。

 たゞし彼らはいずれも、ある宿命を共有している。昨日今日の好天があと何日か続こうものなら、人間たちが動きだす。放っておきゃいいのに、彼らは等しく、引っこ抜かれる。几帳面な人間に遭遇してしまおうものなら、鎌を使って根っこの隅々まで掘り獲られることになる。
 その点についてだけは、拙宅のものどものほうが、はるかに恵まれている。最高権力者のズボラのおかげで、根絶やしにされるということはない。
 その代り、ドクダミタンポポヤブガラシ。蔓草類に樹木の根。恐るべき剛腕強敵たちの自由狼藉世界ではあるが。

 彼らはいずれも、明日をも知れぬ寄る辺なき境涯に身を置くものたちだ。人間から視れば、招かれざる客である。さればこそ、立停まって、話しかけてみる気にもなる。
 煉瓦に囲まれた花壇の花々、鉢を独占して思う存分咲いている花々、生垣の内側で最高権力者から水分・養分を毎日欲しいだけ与えられている花々たちには、近年あまり興味が湧かない。