一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

菜摘どき



 この季節がやってきた。今年も大北農園からの収穫物ご恵贈にあづかった。

 趣味と健康維持とをかねて家庭菜園に情熱を傾けてきた、同齢の学友大北君は、ご丹精の成果を毎年お送りくださる。当日記でもご定連のひとりだ。
 今季は、春菊、青梗菜、絹さや、野良坊菜と、見事な緑一色だ。年寄りは温野菜を食べておけば間違いないと固く信じている私にとっては、ありがたい限りの豪華いただきものである。いずれも大好物ながら、独居食卓にては消費し切れぬかもしれぬと尻込みして、八百屋店頭にて手を出しかねてきた食材ばかりだ。

 青梗菜と絹さやがあるのなら野菜炒めも豪華だし、水溶き粉を差してあんかけ風にしてもよい。白ソース仕立てのシチュー風スープにでもすれば、じつに久しぶりとなる。
 春菊については、大北君からコメントメールがあった。今年初穫りでいちばん美味いところだから、サラダなどの生食がお奨めだとのこと。なるほど、やってみよう。市販のドレッシングなどを買おうものなら、たいていはひと瓶を使い切らずに時が経ってしまうため、買わなくなって久しい。柑橘汁の小瓶などを見つくろって、自分で調合してみようか。多分できるはずだ。
 それでもまだ、量は十分にある。サッと湯がいてから、甘めの酢味噌で和えて、いわばぬた風にしてみたい。酢味噌というものは、万能の純和風ドレッシングであると信じている。

 野良坊菜というものを初めていただく。八百屋店頭では、あぁ菜の花が出てるなと思い込んだまま、深くは注目してこなかった野菜だ。アブラナ科の植物ではあるが別物で、菜の花ほどの苦味はないそうだ。菜の花の和え物と聴けば、連想ゲームのように「ほろ苦い」と応えてしまいそうだが、その苦味がないとなればいかなる味のものか、興味津々たるところだ。
 野良坊菜についても、大北君からのコメントメールがあって、こちらはすでに開花直前で、今季最終収穫とのこと。視ればなるほど茎の先端にツボミが来ている。水に差しておくと花も見られるとのメールなので、どれどれとばかり水を張った洗いボウルに投込んで、流し台にひと晩置いてみたところ、お説のごとく朝には開花していた。
 たしかにアブラナ科だ。拙宅にて菜の花を眼にするのは、おそらく初めての経験である。