一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

開通!



 コインパーキングとの境界塀に沿った建屋西側を、南から眺める。日ごろ眼の行き届かぬ箇所で、南北に自由通行ができなくなっている。まずは通行可能にしないことには、噺が始まらない。

 ネズミモチがひと株立っている。先年伐り倒した親木の分家だ。巨木ではないものの、徒長枝がパーキングへ身を乗出したりする。それを足場にしたヤブガラシの蔓が、パーキング側に垂れ下ったりすることすらある。小うるさい連中である。
 まず繁茂狼藉を尽した蔓草類を巻上げるように引剥がす。観た眼をはるかに超える葉の量だ。次にシダを中心とした下草類を引抜く。つねよりもさらに作業は粗雑だ。どうせ今日だけでは片づかないから、まずもっての第一段階である。
 道具が必要となるのがこの地帯の特色だ。まずフキがあちこちに丸く大きな葉を茂らせている。茎が束になって株立ちしている箇所には、太く頑丈な地下茎が続いている。地上部だけむしったところで、反発するように次の茎を伸ばしてくるから、釜の葉先で掘起して、できるだけ地下茎ごと抜いてしまうのが望ましい。とはいえここでも粗雑流で、地下茎を辿って完全駆逐というにはほど遠い。面倒臭ければ地下茎を切ってしまい、その先は目こぼしだ。

 ネズミモチは曲りなりにも樹木だから、素手で引抜くことはできない。剪定鋏で徒長枝や小枝を払うと、古い切株からはえたヒコバエがいつしか、細いながらも新幹とになっているのが六本七本と姿を現した。径十五ミリ二十ミリといったクラスもあり、こうなると剪定鋏では間に合わず、ノコギリの登場となった。
 ともあれ地上部は片づけた。だが古い切株に続く根が温存されてある限り、また芽を吹いてくることは必定だ。根を退治したいが、とてもじゃないが本日作業にては時間不足だろう。株周りにスコップを入れて、根張りの方向を確かめる。塀の土台に沿って北へ走る根が二本。これだけでも遮断しておくことにする。まず径十五ミリほどの細い根をノコギリで遮断し、方向を追跡して先端まで三メートルほどを掘りあげた。
径三十ミリの太いほうも遮断できたが、先端はかなり長く伸びているらしく、掘りあげるまでにはいたらなかった。
 塀に沿って南へ伸びる根と、建屋方向に伸びる径五十ミリはありそうなもっとも太い根については、後日を期するしかない。

 北詰めから同じ場所を眺めても、やはり通行可能だ。当りまえか。でも嬉しい。
 ひと眼につかぬこの場所は、かつて鉢や用土の置き場所だった。名残で今も、いろいろな残骸が姿を現す。残念なことだが、空缶や空のペットボトルなども多い。弁当の殻が出てきたこともある。つまり草むしりと樹木伐採とに加えて、ゴミ拾いの場所でもあるわけだ。
 手がかかるにもかかわらず、手抜きしてきた。天罰覿面というか自業自得である。一時間作業で片づくはずがないのだ。それでも本日の刈草山は、ふだんの倍ほども大きい。
 とにもかくにも、通り抜けられるようにだけはなった。片づけはこれからだ。