一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

インドネシア新幹線

交通系動画/マトリョーシカ さんの動画場面を、無断で切取らせていただいてます。

 すったもんだの揚句にようやく開業となったインドネシア高速鉄道の模様を、ニュース画像ではない具体的動画として、マトリョーシカさんのユーチューブチャンネルで初めて観せていただいた。
 インドネシア新幹線の愛称は「ウーシュ」というらしい。パンタグラフが送電線を擦って発する新幹線通過音を、日本人はシューッと聴くが、インドネシア人はウーシュと聴いて、愛称となったそうだ。ほんの試運転ていどだが、ジャカルタからバンドゥン(第三都市)までの百四十キロを五十分足らずで運行している。最高速度は東北新幹線の日本最速三百二十キロを上回る三百五十キロだ。
 ゆくゆくはスラバヤ(第二都市)まで伸びる計画だが、その点をマトリョーシカさんは、東京から新大阪までの計画が名古屋まで開通した状態とご紹介なさった。日本人視聴者に解りやすかろうとの配慮だろう。しかしバンドゥンからスラバヤまでの距離は、たしかジャカルタからバンドゥンまでの四倍も五倍もある。途中には山岳地帯も密林地帯も多かろう。まだまだこの先、容易でないことが待ち受けていそうだ。

 容易ならぬといえば、このマトリョーシカさんとおっしゃる二十三歳の青年はどういうかたなのだろうか。先頭車両の顔が E/W7 系に似ているだとか、新幹線駅から市街中心地まではたいそう遠くて、在来線に乗り継がねばならぬ感じが、函館ライナーみたいだとかは、鉄道マニア間では初歩の初歩なのだろうが、こういう説明も混じる。今はまだ開業してないが社内ビュッフェの設備もあって、ヨーロッパの高速鉄道に雰囲気が似ているという。また駅構内の案内表示はインドネシア語と英語の二か国語表示が徹底され、中国が建設を手掛けたにしては、中国語表示はまったく見られない。ラオス高速鉄道とは雲泥の差だとのことだ。この青年は、中国支配圏に呑みこまれるしかなかったラオス高速鉄道の模様を、じっさいに観てきたにちがいない。
 ホームのイエローラインとか、VIP・ファースト・一般車両の座席の違いとか、トイレと荷物置きとか、コンセントや USB ポートとか、視るべき細部は逃さず動画に収めるか言及するかしてある。恐るべき青年だ。


 同じくマトリョーシカさんによる動画の切取りです。
 駅構内の雰囲気は、私にも馴染みがある。みどりの窓口(に相当する発券カウンター)、発着ホーム、自動券売機などへの案内表示。矢印やサービス図示のデザインにまで既視感がある。世界共通基準でもあるのだろうか。私はまったく無知だが。
 「どことなく台湾新幹線と似た雰囲気も感じます」とは、マトリョーシカさんの直感。やはりラオスの場合とは、違うらしい。

 振動も騒音も少なく、快適きわまる乗り心地らしい。車内アナウンスもインドネシア語と英語。いずれの末尾にも「ウーシュ、ウーシュ、ウーシュ、イエース」とかならず付加えられる。合言葉として愛唱されるようにと、鋭意宣伝中なのだろう。
 各車輛の天井にはなん台もの液晶画面が設置され、案内やら広告やらがのべつ流される。目下の時速も刻々に表示される。
 「出ました。三百五十キロです。三百二十キロとは断然違います。たった三十キロでこうも体感が違うもんでしょうか。東南アジアを三百キロ超えで走っているとは、夢のようです」
 世界のあちこちを「乗り鉄」してきたからこそ感じられる感動なのだろう。
 「でも、大音量で音楽を流すお客さんや、イヤホンなしでドラマを観ているお客さんがいるのは、やはりアジアです」
 チクリとやった。トイレや洗面などの車輛連結部へと立つ。
 「とてもキレイです。これがいつまでキレイでいられるか、そこが観ものです」
 こちらはチクリどころではない。ズブリとやった。

 下車してゆく置土産のように、車内清掃員男性の姿が六秒ほど映し出される。その間音声では別の話題が進行しており、清掃についてのマトリョーシカさんのコメントはない。大きなゴミ袋を手にした一人の清掃員が、やがて反対方向へと発車する車輛のために、ペダルを踏んで座席を逆方向へと回しながら、空缶ペットボトルや新聞雑誌など、眼につくゴミがあれば袋に入れて、ゆっくり歩いてくる。目立たぬゴミやホコリまで手早く吸取ったり貼付け取ったりすることなど、思いもよらぬことだろう。
 


 同上切取り。バンドゥン(へと在来線に乗り継ぐ)駅前風景。構内の売店・食堂など商業施設はすべからく工事中で、開業店舗は一店もない。駅前の道路は無舗装の泥道で、その先はえんえんたる田畑である。が、今後急速に開発されてゆくのだろう。
 新横浜駅の開業当初、なにもないこんな所に駅なんぞ造っちまって、どうするつもりだろうと、車窓から眺めて思ったものだ。今の新横浜しか知らぬお若い世代からは、嗤われてしまうことだろう。
 マトリョーシカさんは、番組を締めくくるかのようにコメントなさる。
 「このギャップ! 視ておくなら今ですよ。ぜひお出かけください」