一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

ごっこごっこ



 「もーいいかぁい」
 ほかに人影のない児童公園に、黄色い声が響きわたる。五歳くらいの、度の強い眼鏡をかけた男の児だ。

 本日のチャント飯。いつもどおり主菜なしのただただ品目重視だ。
 ・粥飯(昆布・若布・生姜炊込み、トッピングは擂り胡麻・ちりめん山椒・青さ粉)
 ・玉ねぎ天ぷら(1/2 個分)、つゆは酒・醤油・砂糖でいい加減に。
 ・納豆(一パック)
 ・ウインナ(一本)ケチャップソテー
 ・大根菜(いただきもの)甘酢漬け少量(ワサビ和え、おかか載せ)
 ・鮭そぼろ佃煮(いただきもの)少量
 ・イワシ味付缶詰
 〈本日の角皿〉・出汁巻玉子一切れ
        ・らっきょう一粒
        ・生姜味噌漬け(いただきもの)スライス一枚
        ・梅干し一個
        ・魚卵塩辛(いただきもの)茶匙1/2
        ・ニンニク味噌漬け一個
        ・6Pチーズ一個
 すべからくスーパーで買ってきたものか、いただきものだ。調理というほど手間をかけたものはない。カレーか肉じゃがか、トリごぼうか揚げびたしか、夜鍋作業で下茹でや油どおしして多少は手間暇かけたものが、なにかしら一品だけ切らせずにあるが、いずれも煮物系保存食と分類されて冷蔵庫に。日にもう一回のテキトー飯か、さもなければ間食にて消費される。

 「もーいいかぁい」
 母親はベンチの背後か植込みの陰に身をひそめる。正しくはひそめた振りをする。すぐに見つかるように加減しているらしい。
 滑り台に登った男の児が、そっぽを向いて数を数えるつかの間にも、母親はスマホを覗いている。真剣そうだ。なにか気がかりなことでもあって、じつは気もそぞろなのだろうか。児のほうは母と遊べる今が真剣なのだろう。よりいっそう高い声を張りあげる。
 「かくれんぼ」ごっこ、「鬼ごっこごっこだ。

 自炊老人と名乗っちゃいるけれども、私のは炊事ごっこだな。
 看病・介護時代は、まだしも真剣な炊事だったかもしれない。以後は「ごっこ」だ。ともあれ真剣時代と「ごっこ」時代とを合せれば、かれこれ二十五年のあいだ、この粗末な腕前でわが血肉を維持してきた。
 今日も完食。梅干しの種が一個残った。