一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

どんどカレー



 定番保存食のひとつ、カレー(のようなもの)を仕立てた。

 一日一粒。まことにもってしみったれた消費を続けてきた栗きんとんの、最後の一粒を頬張った。偶然だが、伊達巻の最後のひと切れがタッパウェアに残っていたので、ついでに頬張った。ホッケの最後の半身のそのまた半分は、一昨夜に焼いて食べた。黒豆はもっとも大量に仕入れたにもかかわらず、数日前に食べ了えている。暮れに仕入れた正月食糧を、これですべて食し了えたことになる。私一個の正月終了儀式といった気分だ。

 暮れから持ち越した最後のじゃが芋と人参とが、冷蔵庫の残っていた。恐るおそる調べてみたら、傷んではいないようだ。玉ねぎは蕎麦にもうどんにもラーメンにも放り込むから消費は頻繁で、年明けてから買い足されてある。常備野菜三羽烏が揃っているのだから、本年最初の常備保存食作業となる。
 じゃが芋(小)六個と人参三分の二本の皮剥きとカット。玉ねぎ(中)一個をスライスしておく。中華鍋にて油通し。まず人参、次いでじゃが芋。油切りに挙げておく。玉ねぎは弱火でじっくり。いわゆるシンナリ半量キツネ色。
 鍋に張った水には、出汁の素とチューブ練り生姜。野菜類をドバドバ入れる。野菜カレー(つまり肉なし)だから灰汁の心配はあまりないが、それでも灰汁取り・油取りを兼ねて、いったんシワクチャにしてから開いたアルミホイルで落し蓋のごとくに覆い、さらにガラス蓋。温度上るまで中火、あとは細火で、およそ十分間。
 アルミホイルを外すと、それでもシワシワに油と野菜灰汁が付着している。マーガリンを投入。バターナイフでいい加減に入れるが、量はかなりだ。小さじ三杯分といったところか。カレールウも投入。後の掻き混ぜが楽なように、小割りにして投入。ガラス蓋をして、もう十分間。
 その後はトロみの状態を看ながら適当に。鍋底の角のへばり付き焦げ付き注意のために、掻き混ぜ念入りに。火を止めたら、赤児泣いても蓋取るなの蒸らしと冷まし。

 べつにカレーライスやカレーうどんにするわけじゃない。それらには頂戴物の高級カレーを使う。自前の肉なしカレー(のようなもの)は、小鉢に盛って一品としたり、間食として冷蔵庫前で立食いしてしまったり。二日か三日でなくなってしまう。


 ところで、毎年この日に迷いの種が発生する。消費し了えた栗きんとんの容器だ。始末すべきか、保存すべきか。
 かなり造りのよろしい樹脂容器だ。およそ十五センチ平方で深さ約三センチの蓋付き。似た形状の食器も調理器具もない。真向きな再利用法がなにか発生しそうな予感がある。処分してしまってから、あァあれがあったらなァと残念がる場面が起りそうな気がしてならない。そんな料理があるかどうか知らないが、玉ねぎスライスかニンニクか生姜かを敷いた上に、薄く叩き伸ばした肉か魚を漬け込むだの、生ハムかスモークサーモンの間にレモンスライスか蜂蜜をはさんで重ねるだの、知りもしない、視たことも聴いたこともない料理のイメージだけが、ボンヤリと浮ぶのである。困った。

 かような料簡では、食器棚がいっこうに片づかない。解ってる。古いものから順繰りに処分してきた。処分してはいるものの、昨年と一昨年の栗きんとん容器に、本年分が加わったのである。大急ぎで申し添えるが、栗きんとんの空容器が再利用された実例は、まだない。
 かくして、私の正月は明けた。