一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

トウが立つ

 

 不可解な案件あり。腹立たしきことのふたつみつ。気晴らしには雑草を引っこ抜くにかぎる。

 北は児童公園に、西はコインパーキングに接する、拙宅敷地の北西角にあたり、日ごろもっとも眼の届かぬ一画だ。建屋西側を繁殖地域とするフキの北限にして、建屋北側を繁殖地域とする厄介者の西限である。
 春先に眼を凝らしていれば、フキノトウが観られたのかもしれない。拙宅からまさか食用となる芽が吹くとも思わぬが、観察くらいはできたのかもしれない。すでに立派な茎となっていて、文字どおりトウが立ちまくっている状態だ。
 いく本もの茎が株立ちするように出ている地表部分の元を束ねるように握って、そろそろと真上へ引く。地下部分までが繋がったまま引上げられてくるのが理想だ。地下茎が横に走って、隣の株とネットワーク状態となってある。一見頑丈そうな株が存外細い地下茎の先にあったり、逆に地上部は成長途上としか見えぬにもかかわらずむくつけき地下茎につながっていて、その先でとんでもない大株と連絡されている場合もある。
 例により粗雑な引抜きだから、あたり一帯を根絶やしにすることなんぞは望むべくもない。作業さなかにあちこちで、地下茎はブツブツ音をたてて切れる。来年また伸びてくるつもりだろう。

  
 北辺の厄介者とはオニアザミである。葉先から茎の根元まで、丈夫な細針のような棘に覆われてある。軍手では応戦できない。道路普請や電気工事の工夫さんがたが着用するような、なにかで固めてあったり革で保護されてあったりする手袋が不可欠だが、あいにく装備していない。やむなくスコップを根周りに突っこんで株ごと掘起さねばならない。掘起してしまってから、棘の按配に注意しながら、重心に近い丈夫そうな葉を視つくろって、両手で抓んで移動させねばならない。
 この作業の面倒さに尻込みして一年間放置したために、丈が伸びるわ同類を繁茂させるわで、大骨を折る仕儀となってしまったのがたしか一昨年のことで、当日記にも記録した憶えがある。昨年はそれに懲りて、早いうちに始末した。花を着ける前だったので、やれやれこれで下火になろうかとひとまず安堵したものだ。が、とある種類の植物だけを根絶やしするなんぞという所業は、人間ごとき目の粗い動物のよく為しうるところではない。今年も芽を出してきた。今はほんの三株ほどだけれども、今後も後続部隊がやって来るかもしれない。以後も要注意である。

 不慮の事故被害に見舞われて、不愉快な案件に直面しても、面倒臭さの想いが先に立って、頭が素早くは回転しない。フキ以上に、当方にトウが立っている。