従兄から、郷里の保存食詰合せが届く。月並で変り映えのしない炊事で年間を通している私に、彩りと珍しい味をもたらしてくださる。開封すればたちまちいたゞいてしまうものもあれば、数か月から、うっかりすると半年かけて、ごく微量づつ楽しませていたゞくものもある。
元祖 鱈の親子漬(浪花屋食品)
タラのすき身とタラコ、キクラゲとショウガを合せて、甘酢漬けにした酢の物。夏向きサッパリ感。食事の箸休めにも向くがもったいないので、冷酒やビールのツマミに。ふた付き小鉢に移して、およそ一週間以内に消費。
塩漬 もぞく(赤昌商店)
江戸で申す「もずく」である。もずくを越後では「もぞく」と訛るとおっしゃるかたがあるが、私は疑っている。遊ぶを「あすぶ」と発音し、大工の棟梁を「とうりゅう」と発音するように、速度を重視し唇の動きを節約した、江戸町人・職人衆による発音ではなかったか。つまり、元はもぞくで、江戸訛りが「もずく」ではなかったろうか。
もっとも太平洋のもずくと、日本海のもぞくとでは、歯応えがまるっきり異なる。
かなり強烈な塩漬けになっているので、塩出しは水に浸ける程度では不可。蛇口で水流に晒しながら、指先で捌くくらいの丁寧な塩洗いが不可欠。
あとはざく切りにして三杯酢。夏であればキュウリとともに酢の物。私はおろしショウガのみであっさりいたゞく。
開封すれば、酢の物三回分。これも一週間以内に消費。
黄金みそ漬(越後みそ西)
具は、ダイコン、キュウリ、ナス(以上新潟県産)、ショウガ(タイ産)。
味噌漬け専用味噌の研究が進められてきたのだろう。具を消費して余った味噌を、味噌汁その他に転用しても、まずたいていは失敗する。
生前母は、この味噌漬をことのほか好んだ。休日で父か私が在宅すると、
「今日は面倒だねぇ、アタシひとりなら、味噌漬のシッポでもあれば済んじゃうんだけどねぇ」と云われたものだ。
具はどれも、かなり大切りなので、ひとつ取出しては細かく刻んで、ふた付き小鉢に一杯となる。いちどきに大量にいたゞくものではないから、毎食ひと箸。ひと月あまりかかって、二品めを取出す感じか。
さっそく開封したとして、まず年内消費といったところ。
鯛の子印 魚卵塩辛(田塚屋食品工場)
真鱈の子を秘伝の味付けで塩辛にしたもの。強烈にしょっぱい。魚独特の生臭さもある。それらを好まぬ向きにはお奨めしない。土佐の酒盗、八丈のくさや、北海道のめふんを美味いと感じるかたであれば、これも絶品のはずだ。
最近お若いかたがたは、ピザのうえに薄くぬったり、パスタにソースを和えたあと仕上げにスプーン一杯混ぜ込んだりなさるらしい。アンチョビ感覚か。
さぞ美味かろうとは想像するが、そんなもったいないこと、できるもんじゃない。箸の先端にほんの微量つけて、舐めながら焼酎か冷酒をチビチビが最高だ。爪楊枝の先端だってかまわぬくらいだ。
たしか子どものころは「鯛の子塩辛」と称んでいた記憶がある。トレードマークは恵比寿さまがたった今釣上げたばかりというような豪華な鯛が、天を向いて(仰向け?)跳ねている画である。鯛の子塩辛は通称・俗称だったものか、それとも商品名表示の厳格基準との観点から、ある時期商品名変更したものか、詳しくは知らない。
そりゃそうだ。原材料は真鱈の子(アメリカ産)である。「鯛の子印の魚卵塩辛」がよろしい。
毎晩盃を手にする齢は過ぎた。開封すれば、ひと瓶消費までに半年は要する。その間に、香りはたしかに薄まる。かといって、パスタソースにしてしまうのは、どうにも気が進まなかったのだが、昨今ふと、焼うどんで試してみようかという気に、なったところだ。