一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

日々これ



 この暮し、不規則にして、規則的。

 体調と気分に忠実に、つまりわがまま勝手に暮そうとすると、どうしても不規則生活になってしまう。二十時間以上起きていて、六時間八時間眠る周期となってしまう。起床・就寝時刻がズレてゆく。調整するために、二時間三時間の短時間睡眠の日を挟んだり、三十分の仮眠を重ねて凌ぎ、突っ張ってしまったりする。ひどい場合には、二日に一度十五時間も眠るという事態すら生じる。
 定時出勤の仕事から退いていることと、家族および周辺人物に合せる必要がないことから、当然の結果だろうか。そこへもってきて、疫病禍に散歩やウォーキングの習慣をなくしてしまったし、季節がら草むしりなど時間帯を限る家事も減った。日時を動かせぬ用事といえば、両親の月命日とゴミ回収日だけだ。
 ごく稀に人さまと面談の約束があったり、〆切のある仕事があったりしようものなら、なん日も前からその日ばかりが気にかかってならず、カレンダーの丸印を日になん度も確認するといった按配である。

 明けがたから早朝へかけて、ドッと冷えこむ。局部麻酔のようなストーブや温風機では、まだら寒気に耐えがたい。三重毛布に包まって寝ちまおうと決心する。が、なにかに夢中だったかして、気づいてみれば空腹だ。しかしこんな時間に、しかも就寝前に炊事だ食事だは、いかにも不健康だろう。台所に陣取って、つねのあり合せで熱燗一本、という運びとなる。
 数日前に仕立てた煮物が、おりよく完食となる。ちびりちびりやるあいだの、退屈しのぎの手作業ができたというもんだ。


 燗の具合を看ながら、人参とじゃが芋の皮剥きに入る。『ラジオ深夜便』は、もう最後のコーナーだ。
 もっとも月並な味付けによる、もっとも月並な調理法だ。今回野菜の相棒を務めてくれるのは、雁もどきだ。日ごろから高く評価する食材である。野菜と炊合せて実力を発揮する食材はと考えて、干椎茸と雁もどきと昆布とを三傑としている。若き日には、鰯のつみれを数えていた。なん歳のころからか、なくてもいいかという気なり、第三席が空席のままも据わりが悪かろうからと、とりあえず昆布を据えてある。絶好の食材と巡り逢ったあかつきには、入換える。干椎茸と雁もどきとは、動かないような気がする。
 数日前に採用した油揚げもさようだが、雁もどきについても、今風のソフト仕上げなんぞと謳ったものは、概してよろしくない。「田舎風」だの「昔ながらの手揚げ仕立て」だのと謳ってあるものに限る。内容量で割り算してみると、かすかに割高となるが、そのていどには替えられない。

 かくして、油揚げが雁もどきに代っただけの、なんとも月並な惣菜ができた。ラジオからは、「新しい朝が来ましたぁ~」との宣言がくだされ、七十年も耳慣れてきたラジオ体操のピアノ演奏が聞えてくる。