一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

ちったよ



 ゲゲッ、咲いちったよ。まじ、ヤバくね?

 金剛院さまへ彼岸詣りに伺ったさいに、ご境内のあちこちに咲く彼岸花を眼にして、そうだそういう季節だと、迂闊にも心急かれる思いに襲われたのだった。拙宅の花たちの足もとというか周辺の、草むしりが済んでいないのだ。
 とはいえご境内の花たちは、玄人の庭師さんがたが最良のご判断をなさって、それぞれの場に配置されたもので、なんの世話もせずに放置したままの我がほうの連中とは比較にならない。当方にはまだ数日の猶予があろうと、高を括ったのだった。
 考えが甘かった。拙宅でも開花し始めてしまった。とはいえ目立つのは第一球根群で、陽当り風通しともに最良の地点を占める連中だ。建屋東の通路を、玄関近くから奥の北詰めへ向って、第一から第六と名づけた球根群がある。複数の小球根群がごく近くにある場合は、合せて一群としてある。その第一群が開花してしまったのだ。花茎二本が花開き、つぼみを着けた後続の花茎も追いすがって来る模様だ。
 とはいえ近日中に草むしりすれば、第二群以降の開花には間に合うだろうと、その期に及んでもなお、私はまたもや高を括ってしまったのである。一昨日のことだった。

  
 胸騒ぎがする。植物たちの活動はつねに必死で余念がなく、私のように暢気ではない。手抜きもしない。人間と歩調を合せてなどくれない。もしやと思って見分に及ぶ。
 果せるかな、各球根群において戦端はすでに開かれ、日一日と様相が目まぐるしく変化する段階へと突入していた。小球根群が集って南北に長い第二群では、斥候兵のごとき先発花が咲き、続々たるつぼみを後続隊として用意している。第三群は出遅れているらしく、球根群の頭から五センチ十センチていどの若茎を伸ばし始めたていどだ。
 第四群は豪傑のごとき単騎が、堂々と開花している。近隣に向けて緊急警報を発するスピーカーのように、東西南北へと漏れなくしかも等しく、威容を誇るかのような花姿だ。第五群は塀ぎわから飛石の隙間へかけて東西に幅広い球根群だが、計ったかのように両端に先発花を咲かせ、両花のあいだにつぼみを見せる若茎を準備してある。北詰めの第六群は出遅れているが、いく本もの若茎を出してはいる。どうやら枯れたり腐ったりして脱落した者はないらしい。

 一年ぶりに再会する花ばなだ。ただし地上からすっくと花茎だけを伸ばして咲く姿でなく、ジャングルのごとき草叢をかき分けるようにして花首をもたげる様子であるのを、いささか遺憾とする。
 彼らが葉を出すのは、花が完全に了ってからだ。それまでには周辺の草むしりを完遂して、陽当り風通しによる彼らの蓄養活動を容易ならしめる手配を済ませるつもりだ。