一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

ボケについて

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NHKホームページから無断で切取らせていたゞきました。

 今日の「ごごカフェ」の投稿テーマ(お題)は、「よみがえり」だった。

 台所BGMとしてNHK武内陶子のごごカフェ」を流しっぱなしにしていたら、トークゲストは春風亭小朝さんのご出演だった。電話でのご出演だったが。
 昨今ではいくらか安定してきたものの、一昨年の手帖によると、スケジュール入りお仕事のうち百五十本がキャンセルになったとのこと。キャンセル数にも驚かされるが、その前に、お仕事数に驚かされた。

 なぜ小朝さんが、本日のテーマ「よみがえり」に絡めてご出演かというと、かねてよりリスペクト落語と銘打って、菊池寛の短篇を逐次落語化して、独演会で披露してこられたとのこと。すでに二十席ほどのレパートリーをお持ちだという。
 名前が有名なほどには作品が読まれていない菊池寛だが、読んでみるとじつに面白く、落語化に適するとおっしゃる。なるほど菊池作品は、よろづに表現がくっきり明快で、冒頭一行目から読者をいきなり物語の中心へと引張りこんでしまう。文章の芸ではあるが、話芸にも転用可能なのだろう。
 谷崎潤一郎にも芥川龍之介にも、ご贔屓の小説がおありだそうだが、話芸化しにくいとおっしゃる。文学部学生に聴かせたいご意見だ。

 有名小説の落語化という文脈で、武内さんがなにげなく『父帰る』とお口にされた。はてな、と思ったのは私だけではなかったろう。が、おっしゃる意図は明白だから、重箱の隅を突つくにも及ばない。小朝さんも、スルーされた。

 十四時、十五時ちょうどが近づくと、道路交通情報と天気予報が入り、時報のあとニュースとなる。
 ウクライナとロシアの協議が提案され、ベラルーシで会談の可能性が摸索されている。その一方でプーチン大統領は、核兵器をも視野に入れた抑止力強化を指令した。核兵器廃絶を訴える運動組織の中心人物からは、批判声明が出された、などなど伝えられる。

 番組は続く。「よみがえり」についての、視聴者からの傑作投稿が次つぎ紹介されてゆく。夫婦口喧嘩のあと、ご亭主の機嫌を回復させる方法。
 鰹節をいたゞいてしまい、鰹節削りが我家にもあったことを何十年ぶりかで思い出し、取出して使ってみたところ、驚くべき切れ味で、しかも味が素晴しかった噺。
 小柳ルミ子「お久しぶりね」が流れる。

 小朝さんの噺かきっかけで、高校時代の演劇部で『父帰る』を上演したと思い出した噺。
 「へぇー、だって内容の濃い小説でしょ。頑張りましたねぇ」
 二回目のはてな? さっきから何十分も経っているが……。生放送だからその場で多くを処理せねばならぬ武内さんに、重箱の隅を申しあげるつもりはないけれど、周囲のディレクターさんかどなたか、云ってあげなかったのかな。それとも、だれ一人、読んでねえのかな。
 『父帰る』は戯曲です。小説を脚色して舞台化したわけではありませんし、小説を落語化したわけでもありません。
 キャンディーズ春一番」が流れる。

 昨夜のポテトサラダの残りを、今日コロッケに揚げて大成功したものの、コロッケからキュウリが出てきた噺。
 お祖父さんは四人兄弟でしかも容貌が酷似していた。お祖父さんの葬儀で、久かたぶりにご兄弟が顔を揃えた。
 「お祖父さんがよみがえったようだ。っていうか、増えた?」
 おかげで親戚一同笑いながら、お祖父さんを見送ることができた噺。
 そこでまた、道路、天気、時報、ニュース。プーチンが、核兵器が……。

 「ごごカフェ」「ラジオ深夜便」を聴き流しにしているのは、素朴な、小さな、片隅の幸せを、エピソードにして届けてくださるからだ。
 ネットやある種ジャーナルでは、「日本人よ、平和ボケから醒めよ」などと大声を出されるかたがおられる。少し注意して眺めると、アンタに云われたくねえよ、という御仁がほどんどだ。ご自分で思っておらるほどアンタ、偉くねえよ。
 年月かけて、(血と涙のなんぞとは云わないけれども)大汗かいて、ようやくボケてきたんだ。平和ボケのなにが悪いか、このボケ!