一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

入荷情報!


 『キネマ旬報』バックナムバー。すべて超美本。段ボール大箱に五個。およそ三百数十冊。リスト未作成につき、内訳詳細は後日。昔の人がおっしゃったとおり、ある所にはあるもんだ。

 古本屋研究会。と名乗ったところで、なにも研究するわけじゃない。ただただ古書店のある街を、そぞろ散歩して歩くだけのサークル活動だ。探しもの掘出しものに眼を光らせる会員もあれば、古本漁りを口実に気のおけぬ仲間と未知の街を散歩するのを楽しみにする会員もある。
 活動母体の所属としては、日本大学藝術学部の学生サークルということになっている。が、現役学生会員と OB 会員との交流の場でもある。類は友を呼ぶで、他大学出身の会員もある。それどころか、さて彼はいつ頃からいかなる経緯で参加してくれたのだったかと、今となっては即座には思い出せぬ会員まである。むろん、顔見知りではあるが会員なんだか外部からの飛入りなんだか、考えてみると曖昧な人もある。

 学生会員諸君は、散策以外の活動として、毎年十一月初頭に三日間開催される藝祭日本大学藝術学部の大学祭)にて「堂々堂」なる古書店を出店する。持寄りのフリーマーケットなんぞではない。とある手蔓を辿って、専門家仕様の交換市から正式に仕入れてくる商品だ。
 ただし扱い商品選びの基準は、商売人の書店さまがたとは異なる。一般には人気薄の地味な文庫本や、文学全集や、芸術関連の書籍・雑誌が多くなる。それらを玄人書店さまよりは低価格にて販売する。彩りに、漫画の揃いものなどを出すこともあるが、たいていは初日に売切れてしまう。
 なにせ利益が目的ではない。これから一年間の活動資金と、翌年仕入れの代金とがプールされさえすればよろしいのだ。活動資金と云ったって、ふだんの散策における交通費やら飲食代やら、当然ながら買物代金などはすべて各自負担だから、店造りのための雑貨や文房具ていどしかかからない。家賃も人件費もタダだ。商売(?)としてのハードルはまことに低い。出納簿上は、いたって健全経営(?)が続いている。

 とある手蔓を辿って専門家筋から商品を仕入れると申したが、豊島区は雑司ヶ谷の「古書往来座」さんという、文学・芸術及びその周辺を得意とされる有力古書店さんが、学外顧問としてなにくれとなくご指導くださっている。
 かつてはこの会の中枢の一人だった私も、今は退いて古参会員のひとりに過ぎぬから、気楽で無責任な立場だ。先ざきのことなんぞに、心を煩わせることもない。むしろ出しゃばっては邪魔となろう。しかしながら古書往来座のご店主さんは、今も変らずお気に掛けてくださっていて、とある買取り先からこんなもんが入りましたがと、ご一報くださった。これがとんでもないお宝である。

 映画関連の図書出版をなさっていた出版社さんが、経営方針転換により分野変更。ついては旧蔵の保存資料類を整理したいとの依頼が、古書往来座さんに入ったとのこと。その整理品目の一部に圧倒的な量の『キネマ旬報』が含まれていたという。つねであれば自店に置けぬ在庫は玄人間同士の交換市に出品してしまうところなれども、これは堂々堂に向く商品ではないかと、お声を掛けてくださった。
 ご賢察どおり、まさしく至当。今秋開店予定の堂々堂にては、眼玉特集のひとつになりうる。が、堂々堂の品揃えに口出しするのは私の役目ではない。一会員として、現執行部に提案申しあげるまでである。

 運好く提案が通れば、十一月初頭の堂々堂に出ま~す。
 全冊一括! または○○年度刊行○○冊一括! として貴重品取引もできようけれど、堂々堂の基本理念からして、「分売可、現品限り、早いもん勝ち」となることだろう。